日本大百科全書(ニッポニカ) 「胎盤早期剥離」の意味・わかりやすい解説
胎盤早期剥離
たいばんそうきはくり
胎児が娩出(べんしゅつ)される前に胎盤が子宮内壁から剥離することで、異常分娩の一つ。普通は前置胎盤によるものを除き、正常な位置に胎盤がある場合(常位胎盤早期剥離)をいう。胎盤と子宮の間に出血がおこって血腫(けっしゅ)を形成し、これが増大するとともに剥離はさらに進行し、剥離面が広がるにつれて出血量も多くなり、一部は子宮壁と卵膜の間を通って性器出血(外出血)をおこす。また出血が大量になると、子宮壁から浸潤して子宮周囲や腹腔(ふくくう)内に出血(内出血)する。このため、胎児はガス交換が不能となって死亡する。さらに、胎盤剥離面などから血液凝固を促進させるトロンボプラスチン様物質が母体血中に流入して播種(はしゅ)性血管内凝固(DIC)をしばしば合併し、重篤な出血傾向や腎(じん)障害などをおこすことがある。妊娠中毒症に合併しやすい。
早期発見と早期治療がもっとも重要で、分娩監視装置による早期診断が役だつ。治療としては、早期娩出を図る(帝王切開など)とともに、ショックやDICに対処する。約半数以上に胎児死亡がみられるが、この場合にはDICを合併していることが多い。また著しく減少してきたとはいえ、依然として妊産婦死亡の主要原因の一つとなっている。
[新井正夫]