常位胎盤早期剥離(読み)じょういたいばんそうきはくり(英語表記)Placental abruption

六訂版 家庭医学大全科 「常位胎盤早期剥離」の解説

常位胎盤早期剥離
じょういたいばんそうきはくり
Placental abruption
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 正常な位置にある胎盤胎児娩出よりも前に子宮壁から剥離されることをいいます。何らかの理由で生じた出血胎盤後血腫(たいばんこうけっしゅ)を形成し、それにより周囲の胎盤の剥離が進行します。

 胎盤の剥離は、ガス交換面積を減少させて胎児低酸素症をもたらし、早期娩出を図らなければ胎児は死亡に至ります。剥離部分からトロンボプラスチンなどの絨毛(じゅうもう)成分が母体静脈中に流入し、母体に播種性血管内血液凝固(はしゅせいけっかんないけつえきぎょうこ)症候群(DIC)を引き起こします。

原因は何か

 妊娠高血圧症候群高血圧は発症因子として重要です。子宮内胎児発育遅延血栓(けっせん)形成傾向、子宮筋腫(きんしゅ)合併などのほかに交通事故などの外傷羊水過多(ようすいかた)破水(はすい)も発症要因となります。

症状の現れ方

 臨床症状は剥離の程度により異なりますが、出血、下腹部痛、子宮圧痛、子宮硬直などが多くみられます。次第に腹痛が強くなり、子宮内の出血の増加に伴い、子宮は板状に硬直し、子宮内胎児死亡、ショック症状が現れてきます。

検査と診断

 臨床症状から本症を疑った場合には、超音波断層法と胎児心拍モニターを行います。超音波断層法では剥離後早期には後血腫と胎盤実質との区別は困難で、全体として胎盤の肥厚像として観察され、時間の経過により血腫部分が明らかに描写されるようになります。

 胎児心拍モニターでは頻脈(ひんみゃく)遅発性一過性徐脈(ちはつせいいっかせいじょみゃく)、基線細変動(心拍数を連続記録した場合に認められる細かな変動)の消失などが出現します。時間の経過とともに、遷延性(せんえんせい)一過性徐脈、徐脈となり胎児は死亡に至ります。母体死亡の多くはDICによるものであり、DIC合併の有無を検査する必要があります。

治療の方法

 治療の基本方針は、すみやかな子宮内容の除去です。母体と胎児の状態を把握し、母体の全身管理を行い、胎児が生存し仮死(かし)状態である場合には可及的すみやかに急速遂娩(きゅうそくすいべん)経腟(けいちつ)分娩直前でなければ帝王切開)を行います。

 胎児が死亡した場合でも、時間の経過によりDICの発生のリスクが増加するため、すみやかな経腟分娩、それが期待できなければ帝王切開を行います。それと同時にDICに対する予防、あるいは治療を行います。

上妻 志郎

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「常位胎盤早期剥離」の解説

じょういたいばんそうきはくりそうはく【常位胎盤早期剥離(早剥) Premature Abruption of Normally Implanted Placenta】

[どんな病気か]
 胎盤(たいばん)は、胎児(たいじ)が娩出(べんしゅつ)された後、5分ほどで子宮からはがれて娩出されます。常位胎盤早期剥離とは、前置胎盤(ぜんちたいばん)(「前置胎盤/低置胎盤」)とは異なり、胎盤の付着部位は正常なのですが、子宮口(しきゅうこう)が全開し、胎児が娩出される前に、胎盤が子宮からはがれるものをいい、部分的にはがれるものから、全部がはがれるものまであります。
 妊娠中期から後期におこることが多く、陣痛(じんつう)または月経痛のような痛みのあと、持続的な強い下腹部痛となります。間欠的な(間をおいた)痛みである陣痛と異なり、持続する強い痛みが特徴です。性器出血はほとんどみられないか、あっても少量です。ひどくなると、胎児が死亡したり、母体の血液が固まらなくなる病気であるDIC(「播種性血管内凝固症候群(DIC)」)となったりします。おなかのうえから軽く触ってもとても強い痛みを感じます。
[原因]
 妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)(「妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)」)の母親におこることが多いといわれています。子宮内胎児死亡の後におこることもあります。胎盤の一部が子宮壁から剥離し、そこで出血がおこり、その出血が徐々に広がり、もっと広く胎盤を剥離し、最後には胎盤がすべて子宮壁から離れてしまいます。
[検査と診断]
 多くの場合、症状から診断がつきますが、疑いがあれば超音波検査を行ないます。これによって胎盤と子宮筋の間に均一な出血した部分がみられます。その他、胎児の心拍や子宮収縮の確認とともに、母親の貧血検査や血液凝固に関する検査が必要です。
[治療]
 常位胎盤早期剥離と診断がつけば、胎児の生死にかかわらず、多くの場合、ただちに帝王切開術(ていおうせっかいじゅつ)が行なわれます。また、血液が子宮の筋層内にしみこみ、止血できなければ、子宮摘出が必要となることもあります。母体の貧血やDICに対しては、輸血や、さまざまな薬の使用と、十分な観察が必要となります。
●日常生活の注意と予防
 妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の母親に発生することが多い病気ですから、妊娠中の食生活などに注意し、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)とならないようにすることがたいせつです。また、胎盤の付着部に強い打撲を受けたときもおこることがありますので、妊娠中の行動は控えめにする必要があります。子宮内胎児死亡とわかれば、胎児を早く娩出することが必要です。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「常位胎盤早期剥離」の意味・わかりやすい解説

常位胎盤早期剥離
じょういたいばんそうきはくり
premature separation of the normally implanted placenta

正常の位置にある胎盤が,胎児の娩出より前に子宮壁からはがれること。妊娠中毒症で起りやすいが,原因不明のこともある。胎児は酸素が欠乏するために死亡することが多い。母体も,出血によって危険に陥る。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

妊娠・子育て用語辞典 「常位胎盤早期剥離」の解説

じょういたいばんそうきはくり【常位胎盤早期剥離】

正常な位置にある胎盤に異常が起きて、赤ちゃんの出産前に胎盤がはがれてしまうトラブルです。妊産婦本人および赤ちゃんにも予後が重い病気です。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「常位胎盤早期剥離」の意味・わかりやすい解説

常位胎盤早期剥離
じょういたいばんそうきはくり

胎盤早期剥離

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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