異常分娩(読み)いじょうぶんべん(英語表記)Dystocia

六訂版 家庭医学大全科「異常分娩」の解説

異常分娩
いじょうぶんべん
Dystocia
(女性の病気と妊娠・出産)

骨盤位分娩

 いわゆる逆子(さかご)の分娩です。胎児の体で最も大きいのは頭部ですが、逆子ではその頭部が最後に出てくるため、産道と頭部の間に臍帯(さいたい)(はさ)まれて、臍帯の血流が妨げられます。臍帯血流の遮断(しゃだん)は、ただちに胎児の生命を脅かすことになるので、この時間をできるだけ短くする必要があり、そのために骨盤位牽出術(こつばんいけんしゅつじゅつ)を行います。

 骨盤位分娩(こつばんいぶんべん)では、先頭にあるのが下肢や臀部(でんぶ)であるため、頭に比べて小さく、子宮口が全開していなくてもこの部分が娩出され、子宮口に胎児の頭が引っかかってしまうことが起こりえます。

 そこで、子宮口が全開するまで、胎児の下降を避けるため、できるだけ母体をいきませないようにしなければなりません。また、もしも臀部が産道をふさぐ前に破水すると、体の脇から臍帯が腟に脱出してしまい、狭い部分で圧迫されて、胎児の生命が危うくなることがあります。

 子宮口が全開すると、陣痛により、胎児の臀部が徐々に産道を降りてきます。このころになると、臍帯が多少圧迫を受けるようになり、胎児の心拍数が変動するようになります。外陰部にまで胎児の臀部が降りてきたら、会陰切開(えいんせっかい)をして、産道の出口を十分に広くしておき、陣痛に合わせて母体はいきむようにさせ、同時に骨盤位牽出術を行います。

 これにはいくつかの方法がありますが、いずれも上肢を持ち上げさせないようにします。もし持ち上がったらそれを胎児の顔の前をとおるようにして介出し、腟の外に出します。胎児の頭を仙骨(せんこつ)弯曲(わんきょく)にしたがってスムーズに娩出(べんしゅつ)させます。そうすることで臍帯の圧迫は最短時間ですむようになり、骨盤位胎児が元気に出生します。

 しかし、この手技は熟練を要し、また予定帝王切開(よていていおうせっかい)に比べて出生児の予後が統計的に悪くなっていることを示す論文が海外で発表されたこともあり、骨盤位でとくに初産の場合は、ほとんどの産科医が予定帝王切開を行って、経腟的(けいちつてき)に分娩させないようになっています。

鉗子分娩、吸引分娩

 頭位の分娩で、子宮口が全開し破水(はすい)もしていて、胎児の頭がある程度降りてきている場合に、緊急に胎児を娩出させる必要がある時に行います。

 具体的には、胎児の状態が悪化し(胎児機能不全)、その生命が危うい場合、陣痛が十分に強いのに分娩が止まってしまった場合、心臓病などの合併症のため母体がいきむことができない時に分娩2期を短縮する必要がある場合などに、胎児の頭を誘導して、すみやかに娩出させる方法です。

 鉗子分娩(かんしぶんべん)は、金属の鉗子を胎児の頭に装着して誘導する方法で、吸引分娩(きゅういんぶんべん)は、吸引カップを胎児の頭に装着して陰圧にし、牽引(けんいん)する方法です。いずれも経験を積んだ産科医が行わなければなりませんが、鉗子分娩は吸引分娩に比べ胎児に与える損傷は少なくなっています。ただし母体に対する損傷は鉗子分娩で多いことが、臨床試験で明らかになっています。

帝王切開

 経腟分娩が不可能な時に、母体の腹部と子宮を切開して、胎児を取り出す手術です。手術の対象は多岐にわたりますが、主に胎児機能不全、児頭高位(じとうこうい)分娩停止骨盤位、子宮内感染、帝王切開の既往歴がある場合などです。

 帝王切開には、深部帝王切開術(しんぶていおうせっかいじゅつ)古典的帝王切開術(こてんてきていおうせっかいじゅつ)とがあります(図15)。現在、大半の症例に行われるのは前者であり、子宮下部の下節(かせつ)部分に小切開を加えたあと、その部位を拡大して胎児を取り出します。子宮下節は、妊娠していない時には子宮頸部(けいぶ)の一部を形成し、子宮体部と違って筋線維が輪状に走っています。そのため、ここを横に裂いても筋線維を傷つけないので出血は少なく、また傷あとの回復も良好です。さらに、次回の妊娠時の分娩でも、下節は収縮する部分ではないために力があまり加わらず、破裂が少ないという利点があります。

 これに対して、古典的帝王切開は子宮体部を縦に切開する方法です。子宮体部は筋線維が網目状に走っているので、鋭く切開する必要があります。そのために出血は多くなり、また下節に比べて組織が厚いので、縫合にもより注意が必要です。さらに、筋線維を切断するため傷あとがうまく治らないこともあります。次の妊娠時の分娩では、収縮する部分であることも加わって、破裂が起こりやすいという欠点があります。

 古典的帝王切開は、現在では、胎児が横位(おうい)であったり、下節前壁に大きな筋腫(きんしゅ)があったり、未熟児の帝王切開で下節の形成が不十分であったりして、下節の切開が不可能な場合などだけに行われます。深部帝王切開では、次の妊娠時には経腟分娩することが可能な場合もありますが、古典的帝王切開では次も100%帝王切開が必要になります。ただ最近では、深部帝王切開でも次の妊娠で予定帝王切開を行う産科医が圧倒的に増えています。

藤井 知行


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デジタル大辞泉「異常分娩」の解説

いじょう‐ぶんべん〔イジヤウ‐〕【異常分×娩】

母体や胎児の状態に何らかの問題があり正常分娩とならないこと。母子生命と安全を確保するため、分娩経過において薬剤器具などによる医学的介入を要するもの。流産・早産・微弱陣痛過強陣痛・児頭骨盤不均衡・多胎分娩・前期破水胎位胎勢の異常・癒着胎盤・分娩時異常出血などがある。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「異常分娩」の解説

異常分娩
いじょうぶんべん

経過が正常でない分娩の総称で,以下のものが含まれる。 (1) 母体に心臓病,高血圧,糖尿病などの全身疾患や妊娠中毒症などの異常妊娠経過を伴う場合。 (2) 胎児が双胎奇形未熟児,子宮内死亡の場合。 (3) 分娩経過中の陣痛異常,産道の異常,前置胎盤や胎盤早期剥離臍帯脱出,臍帯下垂,子宮弛緩出血など。異常分娩の場合は,鉗子分娩,吸引分娩,帝王切開などの産科手術とか,新生児の仮死蘇生術や未熟児の保育を必要とすることが多い。

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世界大百科事典 第2版「異常分娩」の解説

いじょうぶんべん【異常分娩 dystocia】

分娩(出産)の経過が正常の経過をたどらず,通常の場合以上の人工介助を必要としたり,母体や胎児に傷害を生ずるような分娩をいう。娩出力(陣痛,腹圧),娩出物(胎児および付属物),産道(骨産道,軟産道)の三つを分娩の3要素といい,それらがいずれも正常で,しかも釣合いがとれている場合には分娩は正常の経過をとる。したがって,そのうちのどれかに異常があればすべて異常分娩となるわけであるが,それにも程度があって,多少の異常があっても釣合いのとれた範囲であり,結果的に母子に異常なく安全に分娩が終了すれば異常分娩とはよばない。

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