日本大百科全書(ニッポニカ) 「アカタチ」の意味・わかりやすい解説
アカタチ
あかたち / 赤太刀
bandfishes
硬骨魚綱スズキ目アカタチ科に属する海水魚の総称、またはそのなかの1種。アカタチ科は背びれが一続きで、背びれと臀(しり)びれに棘(きょく)がないか、あっても背びれに3棘と臀びれに1棘しかない。本科は、体が帯状で細長く伸長し、後端でとがり、背びれと臀びれは棘をもたず、尾びれと連続するアカタチ亜科Cepolinaeと、体は帯状でなく、背びれと臀びれに棘をもち、尾びれとつながらないソコアマダイ亜科Owstoniinaeに明瞭(めいりょう)に分かれる。
日本からアカタチ亜科にはスミツキアカタチ属CepolaのスミツキアカタチC. schlegelii、アカタチ属AcanthocepolaのアカタチA. krusensternii、インドアカタチA. indicaおよびイッテンアカタチA. limbataの4種が、そしてソコアマダイ亜科にはアカタチモドキ属PseudocepolaのアカタチモドキP. taeniosoma、ソコアマダイ属Owstoniaのオキアマダイ、オオソコアマダイ、ソコアマダイおよびソコアマダイモドキO. japonicaの4種が知られている。しかしこれらの亜科を認めない研究者もいる。世界からは4属19種が西部太平洋、インド洋および東部大西洋の海域から知られている。水深50~200メートルの砂泥底の穴に生息し、穴から体の半分ほどを出して待機し、全身を出して立ち泳ぎして餌(えさ)をとる。
[片山正夫・尼岡邦夫 2021年2月17日]
代表種
アカタチAcanthocepola krusensternii(英名はred-spotted bandfish)は太平洋側では相模(さがみ)湾から、日本海側では新潟県から九州南岸、東シナ海、台湾、広東(カントン)省など中国沿岸、フィリピン、フロレス島など西太平洋とインド洋に分布する。体は側扁(そくへん)し、後方は帯状で長く延長し、後方に向かってだんだんと細くなり、後端でとがる。体長は体高の8~11倍。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の下縁に3~5本の棘がある。口は上向きで、上顎(じょうがく)の後端は目の中央部下をわずかに越える。上下両顎の歯は1列で、すこし内側に湾曲する。鋤骨(じょこつ)(頭蓋床の最前端にある骨)と口蓋骨に歯がない。鱗(うろこ)は小さい。背びれは鰓孔(さいこう)の上方から、臀びれは背びれ第10軟条下方から始まり後方に向かい、尾びれに連続する。背びれは78~85軟条、臀びれは76~82軟条、胸びれは18~19軟条。体色は橙赤(とうせき)色で側面に淡黄色の小円斑(えんはん)が1列に並ぶ。垂直鰭(すいちょくき)の縁辺は黄色みを帯びる。水深50~140メートルの砂、粗砂、砂泥底に穴を掘って生息し、その周辺で立ち泳ぎをして捕食する。おもに小形のエビ類、カニ類、小魚などを食べる。産卵期は6~9月ころ。熟卵の直径は0.7ミリメートルほどで、1個の油球をもつ。全長1.7ミリメートルの仔魚(しぎょ)では体が細長く、前鰓蓋骨の縁辺に棘をもつ。体長4.7~8.0ミリメートルの仔魚では頭が大きくなり、前鰓蓋骨の縁辺や頭頂部に大きな棘を有し、成魚の体形とまったく異なる。全長14ミリメートルほどになると棘が退縮し始め、体は伸長し始める。成魚は底引網で混獲されるが、量が少ない。肉は白身で、総菜用や練り製品の原料にされる。近似種に背びれ前部に黒斑があるイッテンアカタチ、体高が高いインドアカタチ、上顎に黒斑があるスミツキアカタチが知られている。
[片山正夫・尼岡邦夫 2021年2月17日]