アザミウマ(読み)あざみうま(英語表記)thrips

翻訳|thrips

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アザミウマ」の意味・わかりやすい解説

アザミウマ
あざみうま / 薊馬
thrips

昆虫アザミウマ目Thysanopteraの微小な昆虫の総称。細いはねの周りに長い房毛が生えているので、分類学上は総翅(そうし)類ともよばれる。農業や園芸関係では、英名スリップスとよぶことが多いが、これはアザミウマ科の蔬菜(そさい)の害虫であるネギアザミウマなどの属名に由来する。アザミウマの名は、昔、山陰地方で子供がアザミの花を手のひらでたたいて、「馬でい、牛でい」と、中から出てくる小虫をウマやウシになぞらえ、その数を競って遊んだ習俗にちなんでいるという。

[山崎柄根]

形態

体長0.5~10ミリメートルで、2ミリメートル内外のものが多い。細長い体で、扁平(へんぺい)か、やや円筒状に近い形をしている。体色は黒褐色から淡黄色のものまである。頭部は長方形で、複眼は比較的大きく、丸い凸面の個眼からなり、単眼は3個ある。触角は6~9節であまり長くなく、その3~4節に感覚器がある。口器は頭部の腹面から後方に突き出てほぼ円錐(えんすい)状をなし、穿孔(せんこう)や吸収に適した形になっている。口器は不相称である。前胸は横に広く、長方形または台形。はねは前後翅(し)とも同様に細長く、翅脈はほとんど退化し、周縁に房状の細毛があるが、無翅のものもある。肢(あし)は短く、跗節(ふせつ)は1~2節で、先端に袋状の吸着器(胞嚢(ほうのう))と1対のつめがある。腹部は腹端に向かって細くなり、尾端に長い角(つの)状の突起をもつものもある。雌の産卵管は種によって、もつものともたないものがある。

[山崎柄根]

生態

アザミウマ類は花や穂、あるいは朽ち木や松葉、キノコの上など、また葉鞘(ようしょう)や樹皮の下などにすみ、虫こぶをつくるものもいる。大部分のものは植物の組織に穿孔(せんこう)し、汁液を吸うが、イネ、ムギ、スイカ、チャ、ミカンタバコ、観葉植物などは、これによって害を受けることがある。一部のものにハダニカイガラムシの体液を吸い、これらの天敵となっているものがある。移動には歩いたり跳ねたりし、また跳ぶこともある。多くは両性生殖であるが、クロトンアザミウマのように単為生殖で増えるものもある。変態は不完全変態である。

[山崎柄根]

種類

世界に広く分布し、3500種以上が記録され、日本からは100種以上が知られている。3科に分けられ、シマアザミウマ科のシマアザミウマAeolothrips fasciatusはタバコなどの害虫。アザミウマ科のネギアザミウマThrips tabaciはネギやキャベツなどの害虫。クロトンアザミウマHeliothrips haemorrhoidalisは温室の害虫。クダアザミウマ科のツノオオクダアザミウマBactrothrips brevitubusは枯れ葉につくなど、代表的な種として知られている。

[山崎柄根]


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改訂新版 世界大百科事典 「アザミウマ」の意味・わかりやすい解説

アザミウマ (薊馬)
thrips

アザミウマ目Thysanopteraに属する昆虫の総称。アザミの花などに入り込んだこの類を,子どもたちが〈ウマでろ,ウシでろ〉とたたいて遊んだことからこの名がある。総翅類,スリップスともいう。微小な昆虫で,体長は0.5~11mm,多くは2mm前後。成虫は通常,黄色~褐色~黒褐色で,体内に白色~赤色の色素をもつことが多い。体は細長く扁平で,まれに円筒形のものもある。口部は先端が円錐状で,おおむね吸収式。脚の先端にはつめのほかに包囊を備え,平滑なところを歩行する際にはこれを繰り出し,吸盤として用いて自在に歩行できる。翅は細長く,周縁に房状の長毛を備える。翅の発達の程度はさまざまで,短翅型,無翅型などの知られる種類も多い。翅脈は一般に単純でこれを欠くものも多い。

 現在まで8科約5000種が世界各地から知られ,熱帯,亜熱帯にもっとも多く,日本には4科200種以上が分布しているものと思われる。各種の植物の花,葉,茎などの隙間に入って生活しているものが多い。普通卵生で,卵を産んで増殖するが,卵胎生をするものも少なくない。また,一般に有性生殖を行うが,いくつかの種類においては単為生殖を行うことが知られている。変態様式は特異で,不完全変態から完全変態への移行過程と考えられる再変態を行う。卵から成虫までに,1齢幼虫,2齢幼虫,第1蛹(よう),第2蛹,第3蛹の各ステージを経る。蛹期には摂食は行わないが,やや不活発ながら運動する。

 食性はさまざまで,食植性および食菌性の種類が多く,食肉性のものもある。食植性のものは長い口吻(こうふん)を植物組織内に穿孔(せんこう)させ吸汁し,葉などに虫こぶを形成するものもある。食菌性のものの多くは不完全菌類を食べ,それらの繁殖している枯葉や枯枝の上,土壌中(堆葉層)などに多く見いだされる。食肉性のものは他のアザミウマ類,ハダニ類など微小動物を捕食し,有益な種類もある。食植性の種類の中には,果樹,蔬菜(そさい)など農作物を食害したり,種々の病害を媒介するものも多い。
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百科事典マイペディア 「アザミウマ」の意味・わかりやすい解説

アザミウマ

アザミウマ目(総翅(そうし)目)に属する昆虫の総称で,スリップスとも。全世界に8科約5000種,日本にはそのうち4科約200種がすむ。大部分の種類は体長2mm内外の微小種で,翅は4枚あるが細く,飛ぶことはできない。不完全変態,単為生殖を行うものもある。一般に植物質を食べ,ネギアザミウマ,イネクダアザミウマなど農業上の害虫も多いが,なかにはカイガラムシやハダニを食べる益虫もある。

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