(1)男声のなかでテノールとバスの間にある声種をいう。その音域はおよそG2-G4であるが、オペラにおいてはA4を歌うバリトン歌手もいる。バリトンはこのように声域が広いため、音域の高いほうをハイ・バリトンhigh b.、低いほうをバス・バリトンbass b.と区別してよぶこともある。
(2)数種の大きさがある同一楽器のなかで、バス楽器よりも一回り小さい楽器に対して、この名称を冠する(例、バリトン・サクソフォーン、バリトン・オーボエ)。これらの楽器の音域は、ほぼ人声のバリトンの声域に対応している。
(3)17~18世紀以降にみられる数種の音部記号のなかで、バリトン声部用に使用されるものをバリトン記号という。これにはハ音記号を用いて五線譜の第五線をC4音とするものと、ヘ音記号で第三線をF3音とするものの2種類ある。
[黒坂俊昭]
ギリシア語のbarytonos(〈低い音の〉の意)を語源とする音楽用語で,初め(16世紀に)はバスと同義に用いられ,最も低い声(部)を意味した。しかし,17~18世紀になると,5声以上の楽曲においてテノールとバスの間の声部を指すようになり今日にいたっている。男性の声種としては,およその声域は〈い〉から〈ト〉である。〈バスの威厳,力強さとテノールの輝きとを併せもち,男性の声種のうちで最も美しい〉(リーマン)とされる。さらにハイ・バリトン(あるいはテノール・バリトン)とバス・バリトンとに分けられる場合もある。器楽の用語としては,同族楽器中,バス楽器よりもひとサイズ小さな楽器,つまりバス楽器の次に低い音域をもつ楽器,例えばバリトン・オーボエ,バリトン・サクソフォーンなどを指す。
なおビオラ・ダ・ガンバに似た低音の弦楽器バリトンbarytonがあり,ビオラ・ディ・ボルドーネviola di bordone(イタリア語)などとも呼ばれる。この楽器を愛好したエステルハージ侯のために,J.ハイドンが多数の作品を残している。
執筆者:津上 智実
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