日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィデリオ」の意味・わかりやすい解説
フィデリオ
ふぃでりお
Fidelio
ベートーベン作曲のオペラ。フランス人ブイイの原作をゾンライトナーがドイツ語訳した台本によるもので、スペインのセビーリャ近くにある刑務所を舞台に、権力の不当な弾圧への抵抗と夫婦愛の美しさを描く。刑務所長ドン・ピツァロの手で地下牢(ろう)に閉じ込められているフロレスタンの妻レオノーレは、男装して牢番の部下となりフィデリオと名のる。夫が殺されることを知った彼女は身を挺(てい)して彼を救出し、悪事が露見したピツァロは罰せられ、一同喜びのうちに幕となる。この作品は1805年にいちおう完成し、同年ナポレオン占領下のウィーンで初演されたが、その後二度にわたる大幅な改訂が行われ、決定版の第三版が完成したのは1814年であった。推敲(すいこう)を重ねた作品にふさわしく、オペラ史の一ページを飾る名作として高く評価されている。英雄的行為と深い人類愛を理想としたベートーベンの精神が、もっとも明瞭(めいりょう)に示された作品といえよう。日本初演は1943年(昭和18)藤原歌劇団による。
なお第一版の序曲は「レオノーレ序曲第二番」、第二版の序曲は「同第三番」とよばれ、第三版のための序曲とは別に作曲されたと思われる「序曲ハ長調」があり、これは「レオノーレ序曲第一番」とよばれている。
[三宅幸夫]