改訂新版 世界大百科事典 「アドネルロア」の意味・わかりやすい解説
アドネ・ル・ロア
Adenet le Roi
フランス,13世紀の作家(トルベール)。生没年不詳。アドネは愛称で,公式には〈楽人アダン〉といわれた。ブラバン公アンリ3世,その没後はフランドル伯ギ・ド・ダンピエールに仕え,1270年には十字軍に加わってチュニスまで赴いている。前世紀の武勲詩を13世紀の韻文フランス語でロマンス(物語)風に書き直したことで知られ,おもな作品に《ブーボン・ド・コマルシス》《デンマークの騎士オジエ》《大足のベルト》と,2万行に近い大作ロマンス《クレオマデス》がある。前3作は武勲詩に多く使われた10,12音節平韻で書かれているが,《クレオマデス》では歴史叙述,ロマンスに使われた8音節詩行が使われている。《大足のベルト》はカール大帝の母ベルトにまつわる〈すり変えられた花嫁〉物語であり,他の2作もカール大帝の騎士の物語である。《大足ベルト》中のパリ,モンマルトルの描写は有名。《クレオマデス》は恋人を訪ねてヨーロッパ中を空飛ぶ木馬で遍歴する恋愛冒険物語である。空飛ぶ木馬のテーマはアンリ3世の娘で,フィリップ・ル・アルディの妃であるマリーを介してスペインの王女から得たと思われる。
執筆者:松原 秀一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報