トルベール(その他表記)trouvère[フランス]

デジタル大辞泉 「トルベール」の意味・読み・例文・類語

トルベール(〈フランス〉trouvère)

中世の北フランスにおいて、トルバドゥール影響下、オイル語作詩・作曲した詩人兼作曲家の総称

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精選版 日本国語大辞典 「トルベール」の意味・読み・例文・類語

トルベール

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] trouvère ) 中世の北フランスで活躍した吟遊詩人。トルバドゥールと同じく貴族出身者が、詩に旋律をつけて歌う形式を発展させ、のち市民階級に受け継がれた。

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改訂新版 世界大百科事典 「トルベール」の意味・わかりやすい解説

トルベール
trouvère[フランス]

北フランスのオイル語を用いた詩人兼作曲家の総称。trouver(新しいもの(詩,曲)を作る)から派生した。トルバドゥールの影響下に12世紀中葉ころから活動を始めたが,アリエノール(ギヨーム9世の孫娘)とフランス国王ルイ7世との結婚が大きな契機となった。なお,アリエノールの娘たち,シャンパーニュ伯に嫁いだマリー,ブロア伯に嫁いだアエリスも,母親同様に,文芸の愛好者・保護者の役割を果たし,トルベールや宮廷風騎士道物語作者を積極的に支援した。

 トルベールが繰り返し歌ったのは,トルバドゥールに範を得た新しい愛であったが,後者が女性の肉体の美しさをも賛美し,肉体の愛を忌避していないのに対し,北国のトルベールは愛の精神性,規範への関心を強め,作品の官能性が希薄になる。愛用した詩型は〈シャンソン〉であるが,のちにロンドー,ビルレー,バラードを開発する。〈暁の歌〉や〈十字軍歌〉,詩論詩,風刺詩にも手を染めた。

 代表的詩人としては,〈心臓を食う話〉の伝説と結びつけられたクーシー城代ギー,シャンパーニュ伯チボー,物語作者としてより有名なC.deトロアアダン・ド・ラ・アルらがいる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トルベール」の意味・わかりやすい解説

トルベール
trouvères

北フランスのオイル語による吟遊詩人の総称。南フランスのトルバドゥールが歌った宮廷風恋愛のテーマが 1160年頃北フランスに移入され,宮廷風の精神に目ざめ,恋愛心理に興味を示しはじめた貴族階級が吟遊詩人を歓迎したところから流行した。 70年頃のクレチアン・ド・トロアをはじめとし,1200年頃にはシャンパーニュ,アルトア地方からほとんどすべての地方に及び,アダン・ド・ラ・アルチボー・ド・シャンパーニュなど数多くの詩人を輩出,貴族から庶民階級へもこの趣向が浸透していった。特にリュトブフが有名。 70年頃この文学趣味が衰えるとともに,トルベールも姿を消した。

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百科事典マイペディア 「トルベール」の意味・わかりやすい解説

トルベール

12―13世紀北仏でトルバドゥールの影響を受け,主としてオイル語(ラングドイル)で抒情詩を歌ったアダン・ド・ラ・アルらの詩人たち。恋愛詩のほか,十字軍歌,即興史詩をも得意とした。
→関連項目吟遊詩人ジョングルールミンストレル

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世界大百科事典(旧版)内のトルベールの言及

【歌曲】より

…F.シューベルトのリートを例にとれば,《野ばら》が第1の型,《菩提樹》が第2の型,《魔王》が第3の型の実例である。 西洋音楽の歴史では,早くも中世のトルベールやミンネジンガー(ミンネゼンガー)など騎士歌人の作品に有節形式の歌曲が現れる。ミンネジンガーという言葉が,そもそも〈愛の歌い手〉を意味するように,歌曲の最も普遍的な題材は,古来〈愛〉であった。…

【中世音楽】より

…アルビジョア十字軍や貴族の結婚などを契機として,世俗歌の創作活動は,北フランスに波及し,やがてはドイツ文化圏においても継承された。その担い手は,南フランスではトルバドゥール,北フランスではトルベール(いずれも〈見いだす人〉の意),ドイツではミンネゼンガー(愛を歌う人)と呼ばれた。イタリアにもトロバトーレがいて,ダンテらもその影響を受けたらしいが,彼らの音楽は伝わっていない。…

【フランス音楽】より

…一つは武勲詩,もう一つは南フランスのトルバドゥールによるオック語の歌である。後者は13世紀になると北のトルベールによるオイル語の歌にとってかわられる。以上は騎士階級の単旋律の歌であるが,13世紀末には市民も交って作詩作曲するようになり,その代表が音楽劇《ロバンとマリオンの劇》をつくったアダン・ド・ラ・アルAdam de la Halle(1237ころ‐87?)である。…

※「トルベール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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