〈新芸術〉の意。14世紀のフランス音楽をさす。同時代のイタリア音楽をも含めることがあるが,様式的にはかなりの差があるので,イタリアのアルス・ノバは〈トレチェント〉と呼ばれることが多い。元来〈アルス・ノバ〉は作曲家兼理論家フィリップ・ド・ビトリーの音楽理論書(1320ころ)の題名で,高度な記譜法を完成することによって,13世紀フランスの音楽様式であるアルス・アンティカ(〈古い芸術〉)に対する〈新芸術〉のきわめて複雑なポリフォニー技法を説明したものである。そのような技法による作品は,特に複雑なリズムと理論的構造を特徴とし,一定のリズム型を反復することによって構成するイソリズムisorhythmの手法を編み出した。代表的作曲家にマショーがおり,ミサ曲,モテット,シャンソンなどを残した。マショーの死後,作曲技法はさらに複雑化し,理論中心の音楽が生み出されるようになったが,アルス・スブティリオルars subtilior(繊細様式)とも呼ばれるこの様式は,中世の末期的現象と考えられている。一方トレチェント音楽はアルス・ノバに比べて理論より実践的傾向が強く,当時の文学(ペトラルカなど)の影響も認められ,リズムよりも旋律に重点を置いた作曲法が用いられていた。代表的作曲家にはヤコポ・ダ・ボローニャとF.ランディーニがいる。
執筆者:金沢 正剛
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「新技法」を意味する14世紀フランス音楽の総称。新しい記譜法について論じたビトリ作とされる音楽理論書(1325ごろ)の題名に由来する。その特徴は、従来の記譜法における音価の三分割法に加えて二分割法も容認したこと、イソリズムとよばれる独自のリズム法やホケトゥスなどの特殊な技法の使用、世俗音楽に対するポリフォニーの積極的な適用と世俗音楽の定型化などであり、その代表としてマショーの音楽があげられる。これに対し、前代の13世紀フランス音楽をアルス・アンティクアars antiqua(古い技法)とよんで区別した。なお、アルス・ノバの語は、イタリア音楽をはじめとする14世紀ヨーロッパ音楽全体をさす場合もある。
[今谷和徳]
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…スコラ的な神学の影響で13世紀までは3拍子が三位一体の象徴として〈完全な拍子〉と呼ばれたが,14世紀には〈不完全な〉2拍子も自由に用いられるようになった。フランスのG.deマショーやイタリアのF.ランディーニに代表される14世紀の音楽は,13世紀の〈アルス・アンティクアars antiqua(古い芸術)〉に対して〈アルス・ノバars nova(新しい芸術)〉と呼ばれた。14世紀に芽生えたルネサンス的ないぶきは15世紀前半になってさらに強まる。…
… 盲目の音楽家ランディーニFrancesco Landiniは,14世紀のイタリア音楽を代表する。この時代のイタリア音楽に対して,アルス・ノバ,またはトレチェント(14世紀の意)という呼称が用いられる。
[ルネサンス]
西洋音楽史では通常1450(または1430)‐1600(または1580)年ごろをルネサンスとしているが,この時代の初期から中期にかけて,少なくともクラシック系の音楽の分野でのイタリア人の創作活動はふるわなかった。…
… 西洋音楽の歴史を振り返ると,およそ300年ごとに大きな変化が見られ,同時代の人びともその〈新しさ〉を意識して〈新〉という語をもってその変化を呼んだ。すなわち,1300年ごろの〈アルス・ノバars nove〉,1600年ごろの〈ヌオーベ・ムジケnuove musiche〉,1900年ごろの〈ノイエ・ムジークNeue Musik〉である。1000年ごろに起こった譜表記譜法の発明をこれに加えるならば,300年の周期性はいっそう明らかとなる。…
…しかし12世紀以降は,ピタゴラス派の協和音程理論の比例数値により平面を決定した教会堂が現れており,これはノートル・ダム楽派の荘重な〈オルガノン〉の出現と軌を一にしている。同様に,華麗なフランボアイヤン・ゴシックと複雑精緻なリズムで構成される〈アルス・ノバ〉の音楽の出現も,密接な関連をもっている。中世の音楽と建築は,古典古代の人体寸法を基にした比例とは異質の,きわめて人工的で超越的な比例秩序を共通の基盤にしていたといえる。…
※「アルスノバ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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