日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポリフォニー」の意味・わかりやすい解説
ポリフォニー
ぽりふぉにー
polyphony 英語
Polyphonie ドイツ語
polyphonie フランス語
音楽において多声性のテクスチュア(音構成原理)を形成する方式の一つで、広義には多声性全体をさすこともある。狭義には、まったく異なる旋律を複数声部に同時に割り当てる場合のみに、このことばないし複音楽という訳語をあてる。ホモフォニーや和声(ハーモニー)がいわば縦の同時的な重音の効果をねらったテクスチュアであるのとは対照的に、ポリフォニーにおいては水平の線条的な旋律の運動をいくつか同時に絡ませることによって、異なる音楽時間の重層構造を感じさせる効果をあげることができる。
具体的な手法としては、同一ないし類似の旋律の模倣(カノン)、主旋律に対してそれとはまったく異なる対位旋律を対照させる対位法、対位法の複雑な形式の一つとしての模倣と対照の組合せによるフーガなどが、西洋において理論化され実践されてきた。その歴史は、9世紀ごろからのグレゴリオ聖歌の旋律を基礎にして複数声部の平行運動を強調したオルガヌムなどの多様化に端を発し、13世紀のモテット(モテトゥス)や16世紀の合唱ポリフォニーのように複数声部がもっとはっきりと独立した形を聞かせる技法を経て、バロック様式から十二音音楽に至る近代に、多くの作曲家が他のテクスチュア原理と区別したり融合させたりして応用してきた。
こうした歴史的経過を考え合わせると、ポリフォニーなる用語ないし概念を非ヨーロッパ音楽に適用することは、ヨーロッパ的民族中心主義に陥ることになりがちであるので注意が必要だが、表面的に現象として類似した音楽語法をポリフォニーとして類別することは一般に行われている。ただし、音楽の作り手や聞き手の意識を考慮に入れると、ヨーロッパのポリフォニーとは多かれ少なかれ異なるくふうが凝らされている場合が多いので、別の用語で区別する方法も講じられている。たとえば、アジア諸民族がそれぞれに固有の形で伝承してきた合奏形式のなかには、ヨーロッパ的感覚からすれば部分的にポリフォニーとして聞こえるものがあっても、意識としては同一旋律の同時的変奏である場合にはヘテロフォニーとよんだり、アフリカの例に聞かれるようなリズムを強調したポリフォニックな合奏であればポリリズムとよんだりする。しかし、どちらにしても特定の文化を超えて通用する概念とはなりえていない。
[山口 修]