ユリ科の多肉植物アロエ属の総称だが,一般にはキダチアロエA.arborescens Mill.(一名,医者いらず)をいう。ギリシア語のaloēも苦味を意味する。aloēをロエと読んで,蘆薈と写字したものがロカイと読まれ,ロカイとも呼ばれるようになった。アロエ属Aloeは約300種知られ,アフリカの南部から東部の乾燥地が分布の中心で,マダガスカル島にも40種ほど分布し,カメルーン,ソコトラ島,アラビアにも少数の種が自生する。地中海沿岸,アメリカなどでも野生状態で見られるが,すべて逸出したものである。
無茎種と有茎種の2群に大別でき,前者には株の直径が10cmくらいのアロエ・ハウォルティオイデスA.haworthioides Bak.のような小型種も見られ,後者には単生し樹木状に育つ大型種が少なくない。その代表種には高さが20mにもなるアロエ・バイネシイA.bainesii Th.Dyer,古株では幹の直径が1mを超すアロエ・ディコトマA.dichotoma L.,同様で分枝の少ないアロエ・ピランシイA.pillansii L.などがある。葉はいずれも多肉質で,ふつうはロゼット状に展開し,葉縁に鋸歯をもつが,少数の種はさらに葉の表や裏面にもとげ状の突起を有する。アロエ・フェロックスA.ferox Mill.もその一つで,長さが1mにもなる分厚い葉に鋭い突起が散在する。キダチアロエは有茎群だが,十分育つと高さが1mを超え,株立ちする。
花は日本では冬に咲き,筒状で,多数が穂状あるいは総状花序につき,ふつうは赤色から黄色。
古代ギリシアから下剤に使用され,アリストテレスはアレクサンドロス大王に産地のソコトラ島を占領するように勧めたという。サンも古くから傷の手当てに使っていたことが残された壁画でわかる。薬用にはバルバドスアロエ(キュラソーアロエ)A.vera L.,ケープアロエ(フェロックス種など),ソコトラアロエA.perryi Bak.などがあり,葉液をかためた黒色の堅い塊が商品として取引される。日本にはケープアロエが輸入されている。アロエ塊は唐代には中国に伝わり,蘆薈と呼ばれた。民間薬のキダチアロエは江戸時代に日本に渡来した。アロエにはアントラキノン系の誘導体のアロインaloinやアロエエモジンaloe-emodinなど十数種の成分,ベンゾピロン誘導体のアロエシンaloesin,アロエニンaloeninなどが知られる。さらに抗腫瘍性のアロマイシンalomicinも報告されている。主成分のアロインはケープアロエの乾燥粉末に20%,キュラソーアロエには33~40%含まれる。苦みの強い物質で,瀉下(しやげ)作用があり,便秘の家庭薬原料に使われるが,骨盤内臓器の充血を伴うため,妊婦,痔疾のある者は用いてはならない。民間ではアロエの生葉の液汁を胃腸病に内服し,外傷や火傷などに外用するが,殺菌作用のほか,ぬるぬるした多糖体の働きが関与しているらしい。
栽培には水はけのよい用土を使い,日当りのよい場所に置き,冬は防寒する。繁殖は株分けか挿木による。実生も可能だが,葉挿しはできない。絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を制限したワシントン条約のⅡ項にアロエ属の全種が該当し,輸出入に際しては輸出国の輸出許可書が必要とされる。輸出許可書があればⅠ項に指定されているものを除き,商業用の取引ができる。Ⅰ項に該当するのはA.pillansii L.,A.vossii Reyn.,A.albida(Stapf.)Reyn.,A.polyphylla Schoenl.,A.thorncropftii Pole Evansの5種で,研究用を目的とし,輸出,輸入双方の許可が完備した場合のみ輸入が可能である。
ハウォルティア属Haworthiaは小型で,花は白い。アフリカ南部に約150種あり,葉の表皮が堅いグループとやや柔らかい2群に大別できる。前者は葉挿しが可能で代表種は十二の巻H.fasciata Haw.,後者は葉挿しができず,多くは葉に透明な斑があるハウォルティア・レツーサH.retusa(L.)Haw.や葉縁に鋸歯の変形した毛があるハウォルティア・セタータH.setata Haw.が主要種。いずれの種も小型の整った姿で,室内の弱光線でも育つ。
ガステリア属Gasteriaは小型で,葉は舌状で互生し,しばしば白点があり,葉挿しが可能。花は胃袋状で赤い。南アフリカに約80種が分布する。
執筆者:湯浅 浩史+新田 あや
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ユリ科(APG分類:ススキノキ科)の多年生多肉植物。アフリカ東部、南部に特産し約180種あり、うち数種が世界各地で栽培されている。外形はリュウゼツランの仲間によく似るが、花をつけると明瞭(めいりょう)に区別できる。茎はほとんど伸長しない種類と、低木状に伸長する種類がある。花は総状花序をなして花茎につき、筒状で長さ約2センチメートル、花筒の先端は6裂し、中から6個の雄しべが外に出る。雌しべは1個。葉は長披針(ちょうひしん)形で先端はとがり、葉縁にやや鋭い刺(とげ)のあるものが多く、著しく多肉で、葉柄はなく、茎に互生する。
[長沢元夫 2019年1月21日]
葉を横に切り、断面を下に向けると黄色の液汁を滴下するものが多い。この液汁を集めて天日または火を用いて濃縮して得た黄褐色または赤褐色、黒色の乾燥エキスをアロエと称して薬用に供する。これにはアントロン配糖体であるアロイン、アントラキノンに属するアロエエモジンの配糖体、樹脂などが含まれており、下剤として便秘に用い、また通経剤にも配合される。少量用いると苦味強壮剤となる。
市場で取引される種類はソコトラアロエ(イエメン沖のソコトラ島産)、キュラソーアロエ(西インド諸島産)、ケープアロエ(アフリカ南部産)、ザンジバルアロエ(アフリカ東部産)、バルバドスアロエ(西インド諸島産)などで、これらの原植物はA. vera、A. perryi、A. feroxなどである。日本で広く栽培され、民間薬として用いられているのはキダチアロエ(キダチロカイとも称するが、ロカイは蘆薈(ろえ)の誤読から生じたものである)A. arborescensで、葉の液汁を胃腸病、喘息(ぜんそく)に内服したり、切り傷、やけど、ひび、あかぎれに外用する。効果がよいので「医者いらず」の名が生まれた。
[長沢元夫 2019年1月21日]
花が咲かないものと思われがちだが、それは、冬咲きのため暖地でないと開花しないのと、古株にならないと花をつけない性質による。シンロカイ(真蘆薈)A. vera (L.) Burm.f.(A. barbadensis Mill.)はヨーロッパでは古くから利用されていた。エジプト、ギリシア、ローマでは紀元前から栽培していたといわれる。繁殖は実生(みしょう)または挿木による。小形種は鉢栽培される。
[高林成年 2019年1月21日]
アロエはアラビア語のアロッホAllochに由来する。古くから下剤として利用され、古代ギリシアでは重要な輸入品であったため、アリストテレスはアレクサンドロス大王にその産地(ソコトラ島)の占拠を勧めたという。また紀元前のインドでも、葉汁を乾燥させた黒色の固い塊は商品として取引された。仏典に出てくる「婆奢迦(ばしゃが)」をアロエだとする説がある。また中国では宋(そう)代の『開宝本草』に「奴(ど)薈」「蘆薈」の名があり、さらに明代の『本草綱目(ほんぞうこうもく)』には蘆薈で皮膚病を治したという話を伝えている。しかし性状は正しく記されていても、付図には広葉樹のような姿が描かれており、薬用のアロエの塊は伝わっても植物自体が伝わっていなかったことがわかる。日本への渡来時期は明らかではないが、江戸時代に蘆薈の塊がもたらされている。南アフリカでは古くから先住民のサン人が傷の手当てにアロエを使用していたが、16世紀以降に進出してきたオランダ人がその効用を認めて生産に乗り出し、ケープアロエが世界に広がった。バルバドスアロエ、キュラソーアロエも原産はアフリカである。
[湯浅浩史 2019年1月21日]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…古くは多くの民間薬がこの目的に用いられた。腹部に充血を起こすような下剤や,刺激性の植物精油剤で,たとえばロカイ(ユリ科植物アロエの葉のエキス)やサフラン(アヤメ科植物)などがあったが,これらはしばしば人工流産を起こす目的でも用いられた。現在では,月経困難症について,その原因がいくつか明らかにされており,その原因を取り除くような治療が施される。…
※「アロエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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