体外に排出すべき便を十分量かつ快適に排出できない状態を便秘といい、おなかが張った感じ、腹痛、腹鳴(ゴロゴロ鳴る)などの不快な症状が現れると、治療が必要になってきます。
便秘を解消する薬が下剤で、作用の仕方から、刺激性下剤と機械的下剤の2種類に大別できます。
■刺激性下剤 腸の粘膜を刺激し、腸の運動を活発にさせて排便を促す薬です。大腸刺激性下剤と小腸刺激性下剤とがあります。刺激性下剤の代表が大腸刺激性下剤で、各種の便秘の治療に幅広く使用されています。
小腸刺激性下剤にはヒマシ油などがありますが、大腸刺激性下剤に比べて副作用が強いため、食中毒や急性腸炎などの治療のため、特別に短期間使用されるだけです。
一般に、刺激性下剤は効力が強く、効果は高いのですが、使用し続けていると、増量しないと効かなくなり、薬に頼った排便習慣になりやすい(依存性)といわれています。
■機械的下剤 腸の内容物(便)に作用して、水分を集めて便を膨らませ、その刺激によって排便を促す薬です。
機械的下剤は、刺激性下剤に比べて効力はマイルドで、効果が現れるまでの時間はかかりますが、依存性は少ないとされています。
刺激性下剤と機械的下剤のほかにも、
現在の下剤は、昔のような激しい作用のある薬はほとんどなく、安全性の高い薬が使用されています。それだけに、安易に下剤が使われがちです。
しかし、ちょっと便秘がちだからといって安易に下剤を使用していると、やがて下剤を使わなければ排便できないようになってしまいます。だんだんと下剤の使用量を増加しないと排便の効果が現れなくなり、下剤に対する依存性・習慣性ができてしまうのです。
便秘の治療は、食事・運動・排便習慣といった生活習慣の改善が第一で、下剤の使用はあくまで補助的なものです。
下剤の使用にあたっては、医師・薬剤師の指示通りの使用量や使用期間を守ることが大切です。
出典 病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版について 情報
瀉下剤(しゃげざい)ともいい、腸管の運動を亢進(こうしん)させ腸内容物の排泄(はいせつ)を促進し、また糞便(ふんべん)を軟化膨潤させる薬剤。適応は主として便秘の治療にあるが、食中毒や薬物中毒、腸管のX線検査、駆虫薬の投与後などに腸内容物をなるべく完全に排泄させるといった目的にも用いられる。その作用の強弱によって峻下(しゅんげ)剤、軟下剤、緩下剤に分けられているが明確な分類とはいいがたく、現在では作用機序によって粘滑性下剤、膨張性下剤、塩類性下剤、刺激性下剤、浸潤性下剤に分類されている。
(1)粘滑性下剤 鉱油や植物油で腸管から吸収されないものはそのままの形で排泄され、粘膜に潤滑的な効果を与え、また糞便を軟らかくして機械的に排便を容易にする。けいれん性便秘に用いられる。流動パラフィン、オリーブ油、グリセリンなどがある。
(2)膨張性下剤 腸管から吸収されず、腸管内で水を吸収して膨潤し容積を増大することにより腸粘膜を刺激し、腸の蠕動(ぜんどう)(生理的排便反射)を促進して排便を促す薬剤。弛緩(しかん)性便秘に適用され、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩が有名であり、寒天、メチルセルロースも用いられる。
(3)塩類性下剤 腸内容物の浸透圧を高めて水分の吸収を少なくし、腸管内に多量の水を貯留し水様便として排出させる。弛緩性便秘用で、腸管から吸収されにくい無機塩が用いられ、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、人工カルルス塩などがある。このうち硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウムは水溶液で投与され、酸化マグネシウムは粉末または水に懸濁して水酸化マグネシウムとして内服される。硫酸マグネシウムは峻下剤、酸化マグネシウムは緩下剤でいずれも繁用されている。
(4)刺激性下剤 腸粘膜を刺激して反射的に蠕動をおこさせる薬剤で、腸炎や腸閉塞(へいそく)などのある場合や老人には不適である。その作用部位から、小腸性下剤と大腸性下剤に分けられる。前者には、ひまし油と甘汞(かんこう)があるが、甘汞は水銀製剤のため現在ではまったく用いられていない。小腸性下剤は食中毒の際などに腸内容物を急速に排出させるために用いるが、栄養障害をおこすので、便秘の治療には不適である。大腸性下剤にはフェノールフタレイン誘導体(フェノバリン)、ビソキサチン(ラキソナリン)、イオウ、ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン)のほか、アントラキノン誘導体を有効成分とする生薬(しょうやく)類、大黄、センナ、カスカラサグラダなどがあり、これらの生薬はエキス剤としてまた有効成分を抽出したものが配合剤としてよく用いられる。大黄は粉末として繁用されている。樹脂性峻下剤と称されるものに巴豆(はず)、ヤラッパ、牽牛子(けんごし)があるが、単独では使用されない。
(5)浸潤性下剤 界面活性作用によって糞塊中への水の浸透を促し、腸管からの吸収を抑制して便を軟化膨潤させ腸内容を増大させることにより自然排便を促す。ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)がその例であり、配合剤として用いられる。
下剤の目的で浣腸(かんちょう)や坐薬(ざやく)を用いることも多い。浣腸にはグリセリンの10~50%液、2~3%の薬用せっけん液が、坐薬としてはグリセリン坐薬がよく用いられる。
[幸保文治]
排便を促す薬剤。瀉下(しやげ)薬ともいう。その作用の強さから緩下剤と峻下剤に,作用部位から小腸性下剤と大腸性下剤に分けられる。小腸性下剤は服用2~3時間後に排便が起こる。有害物排出によいが,栄養不良を起こしやすく連用できない。疝痛,腹鳴,しぶりを伴うことが多い。大腸性下剤では,作用発現までに時間がかかる。しかし,栄養障害を起こさないので,常習の便秘に用いられる。下剤には次のようなものがある。(1)塩類下剤 水溶性で腸管から吸収されにくい塩類を用いると,浸透圧によって水分が吸収されず,逆に腸管腔内に水分が吸引され,腸内容が増量し,排便が促進される。硫酸マグネシウム,硫酸ナトリウム,リン酸水素ナトリウムなどが用いられる。(2)粘滑性下剤 硬い便を軟化させ,腸壁を滑らかにし,水分吸収を阻害する。流動パラフィンが用いられる。腸溶性栄養物やビタミンA及びDを溶解し吸収を阻害するので連用はさける。(3)浸潤性下剤 界面活性剤を内服すると,便への水分の浸潤が容易になる。ジオクチルソジウムスルホサクシネートなどが用いられる。(4)膨張性下剤 親水性コロイドを生成し,腸内で水分を吸収し便を軟化させ容積を増加させる薬物である。局所刺激作用がないので,腸粘膜に炎症がある場合にも用いうる。寒天,メチルセルロースなど。(5)刺激性下剤 腸粘膜を刺激して,反射的に蠕動(ぜんどう)を促進する薬をいう。ヒマシ油の主成分はリシノール酸のトリグリセリドであるが,十二指腸で消化液中のリパーゼによって加水分解され,リシノール酸の局所刺激により下痢を起こす。妊婦用または駆虫薬使用の際の下剤としては用いない。塩化第一水銀(甘汞(かんこう))は不溶性であるが,腸内で徐々にHg⁺がHg2⁺に変わり,腸粘膜を刺激する。また,電解質および水分の吸収を阻害して,腸内容物の容積を増加させる。ヒマシ油と塩化第一水銀は小腸に作用し,以下は大腸に作用する。フェノールフタレインは小腸において腸液と胆汁の存在下に溶解されて,大腸に作用する。一度小腸で吸収されてから胆汁,大腸に再分泌されることによる作用と直接作用とがある。フェノバリンやビサチンが用いられる。アントラキノン誘導体の有効成分はエモジンまたはその類似体で,配糖体は無効であるが,腸内で糖が切れて活性化する。一度吸収されて血中に移行してのちに大腸に分泌されてから作用するが,一部は直接,大腸に作用する。下剤とされる生薬には,アロエ(ロカイ),カスカラサグラダ,センナ,大黄などがある。また峻下性の植物下剤のうち他の下剤が効かない場合のみに用いられるものに,牽牛子(けんごし)(アサガオなどの種子),ハズ,コロシント実,ヤラッパなどがある。
執筆者:福田 英臣
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