アンチノック剤(読み)あんちのっくざい(英語表記)anti-knock agent

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンチノック剤」の意味・わかりやすい解説

アンチノック剤
あんちのっくざい
anti-knock agent

ガソリンエンジン火花点火機関)で発生するノッキング現象を防止し、ガソリンオクタン価を向上させる目的でガソリンに添加される薬剤。ガソリンエンジンの熱効率をあげ、性能を高めるためには、圧縮比を高くする方法がとられるが、高圧縮比ではノッキングとよぶ異常燃焼をおこしやすく、この結果かえって出力が低下するばかりでなく、エンジンは激しい振動や過熱をおこし、損傷の原因となる。このためガソリンはアンチノック性、すなわちノッキングをおこしにくい性質が必要で、この尺度を数量的に表す数値がオクタン価である。アンチノック剤微量(最高約0.8容量%)の添加で、ガソリンのオクタン価を著しく上昇させる効果がある。従来アンチノック剤としてもっぱら使用されてきたのは、1921年ミジェリーT. Midgeley(1889―1944)によって発見されたテトラエチル鉛Pb(C2H5)4(沸点200℃)であるが、近年、比較的低沸点留分のオクタン価が低い改質ガソリンが主体となるにしたがい、テトラメチル鉛Pb(CH3)4(沸点110℃)が多く用いられ、またメチル基エチル基が一部置換した混合アルキル鉛も用いられるようになった。これらのアルキル鉛は、炭化水素の燃焼に際して生成する中間酸化物を不活性化し、異常燃焼の連鎖反応を断ち切る作用をする。これらの鉛化合物は猛毒性物質であり、加鉛ガソリンは、染料によってオレンジ(自動車用)、緑、紫(航空機用)などに着色され、毒性を表示している。しかし近年、自動車排気中の鉛化合物の有害性、とくに排気浄化触媒を被毒することから、世界的にガソリンの低鉛化ないし無鉛化が進んでおり、日本では並級ガソリンはすでに無鉛化されている。

[原 伸宜]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アンチノック剤」の意味・わかりやすい解説

アンチノック剤
アンチノックざい
anti knock agent

ガソリンエンジンでガソリンが燃焼する際,激しい連鎖反応のためノッキングが起り,燃焼効率を低下させるので,ノッキング停止を目的としてガソリンに加える成分をいう。ガソリンのアンチノック性は多くの場合,燃料試験エンジンで測定し,オクタン価で表示され,アンチノック性の大きいガソリンほどオクタン価が高い。アンチノック剤として代表的なものはテトラエチル鉛 (四エチル鉛) である。鉛公害が叫ばれてから代替品として鉛を含まないものが検討されたが,アンチノック性や NOx 発生などの点で,テトラエチル鉛に匹敵するものは見出されていない。アンチノック性向上にはそのほか低級アルコール,メチル-t-ブチルエーテル,アニリンなどがある。実際上の問題から,テトラエチル鉛を単独で用いず,臭化エチレンや塩化エチレンおよび他の安定剤などを混合して使用する。日本では現在有鉛ガソリンは原則として使用されない。

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