日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノッキング」の意味・わかりやすい解説
ノッキング
のっきんぐ
knocking
往復動内燃機関のシリンダー内の異常燃焼により、槌(つち)でたたくような音を出す現象。燃料と空気の混合気は点火後火炎がシリンダー内を伝播(でんぱ)するが、伝播する火炎の前方の未燃混合気が圧縮され高温度に保持されると化学反応が急速になり、一度に多くの点で燃焼を始め、伝播火炎の到達する以前に急激に残りの未燃混合気が燃焼する。急激な燃焼によってシリンダー内に大きな圧力振動が発生し、圧力波がシリンダーを音速で往復するのに相当するような衝撃音(数キロヘルツ)が発生する。ノッキングは、圧力振動の振幅の小さい軽微なノックから圧力振幅の大きい激しいノックまであり、軽微なノックは人間が感知できる限界に近い。ノッキングの発生は、燃料(ガソリン)の化学構造によって大きく左右される。また、ノッキングをおこしにくい性質をアンチノック性とよぶ。ノッキングは、自発火をおこしやすい燃料を用いるほど、点火時期を早めたり圧縮比をあげて未燃混合気を長く高温に保つほどおこりやすい。また燃焼室の構造で伝播火炎前方の未燃混合気の冷却が不十分な場合にもおきやすい。ガソリンのアンチノック性を数量的に示す指数をオクタン価という。またノッキングを抑止する有効な添加剤(アンチノック剤という)としてテトラエチル鉛があるが、大気汚染防止のため使用は制限されている。ノッキングがおこると、圧力波により高温の燃焼ガスから多くの熱が燃焼室壁に流れるようになり、燃焼室壁の温度が上昇し、燃焼室壁の焼損、さらには排気弁などの焼損に至る。
[吉田正武]