改訂新版 世界大百科事典 「イボタガ」の意味・わかりやすい解説
イボタガ (水蠟蛾)
Brahmaea wallichii
鱗翅目イボタガ科の昆虫。大型のガで,開張10cm内外。北海道から屋久島まで全国的に分布する。翅には無数の波状線があり,後翅の基部に近い半分は黒い。この科はヤママユガ科に近縁な小さな科で,アフリカ,イタリアの南端,東南アジアから日本にかけて約15種が知られている。日本にはイボタガ1種しか分布していない。日本のイボタガは春に羽化し,夜行性でよく灯火に飛来する。幼虫はモクセイ科のイボタノキ,モクセイ,トネリコ,ネズミモチなどの葉を食べる。若齢のうちは7本の角質の長い突起物をもち,とくに胸部の2対は長く,移動するときにはこれを振り立てる。明らかに食虫性の鳥や獣類から身を守るためである。終齢でこれらの突起はなくなり,ふつうの芋虫となる。6月ころ土中に潜って蛹化(ようか)し,さなぎで越冬して翌春羽化する。多数発生するとイボタノキなどの食樹は丸坊主になることがある。終齢幼虫はイボタノムシと呼ばれ,これをゆでて乾かして漢方薬とし,肺結核や疳(かん)の妙薬として食べられたこともあった。
執筆者:井上 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報