改訂新版 世界大百科事典 「インキ消し」の意味・わかりやすい解説
インキ消し (インキけし)
ink eraser
インキブルー(弱い青色染料),タンニン酸または没食子酸,鉄(Ⅱ)イオンなどを成分とするブルーブラック・インキで筆記すると,紙上で酸化されて,水に不溶の複雑な構造の鉄(Ⅲ)塩ができる。これは堅牢な性質をもつため,これを消すインキ消しは還元剤と酸化剤の2剤からなっている。一般的なインキ消しでは,第1段の還元剤としてシュウ酸(COOH)2を,第2段の酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムNaOCl水溶液を用いる。まずシュウ酸の5%水溶液を塗ってタンニン酸または没食子酸の鉄(Ⅲ)塩を還元すると同時にある程度分解し,消しやすい鉄(Ⅱ)塩にする。次に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を塗ると,これは強い酸化剤であるため上記鉄(Ⅱ)塩および青色染料は完全に酸化分解される。次亜塩素酸ナトリウム水溶液をつくるには,さらし粉の20%水溶液に炭酸ナトリウムの10%水溶液を同量加え,沈殿した炭酸カルシウムをろ過する。
次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性のほうが安定だが,シュウ酸を先に使うことにより弱酸性にしたほうが強い酸化力を呈する。堅牢でない塩基性染料を原料とした色インキをブルーブラック・インキ用のインキ消しで消すことはきわめて容易である。
執筆者:新井 吉衞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報