アミノ基,置換アミノ基,あるいはN原子を含むヘテロ環など塩基性基を含む色素カチオンと,無色のアニオンで塩を形成している染料.塩酸塩,硫酸塩,アルキル硫酸塩,硝酸塩,あるいは塩化亜鉛複塩の形のものが多い.色素カチオンの化学構造は広範囲にわたり,アゾ系,トリフェニルメタン系,ジフェニルメタン系,アジン系,オキサジン系,チアジン系,キサンテン系,アクリジン系,チアゾール系などがある.中性あるいは弱酸性浴から絹,羊毛のほか,オーロン,ナイロンや,一部アセテート繊維を直接染めるが,木綿には直染性がなく,タンニン,吐酒石,または合成媒染剤で媒染する必要がある.鮮明で着色力もすぐれているが,日光に非常に弱く,またアルカリや洗濯に対しても弱い.このため,現在では繊維類の染色にはあまり用いられず,むしろ紙,皮革,木材,そのほか雑貨の染色に,レーキ顔料として印刷インキに,あるいは遊離塩基の形(油溶性染料)で油脂,せっけん,プラスチックの着色に広い用途を見いだしている.近年,アクリル繊維用の改質塩基性染料がめざましい進歩をとげた.これらは旧型の塩基性染料と区別するために,とくにカチオン染料とよばれ,構造的には,大部分が第四級アンモニウム基を含むもので,クリスタルバイオレット,ビスマルクブラウンGがその例である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
アミノ基-NH2または置換アミノ基-NHR,-NRR′をもった色素塩基の塩酸塩の構造をもつ染料の総称。ときにシュウ酸塩,または塩化亜鉛との複塩もある。分子構造から塩基性染料を分類し,それぞれの例を表に示す。
1856年にW.H.パーキンによって発明された最初の合成染料モーブをはじめとし,初期の合成染料の多くはアニリンを原料とした塩基性染料である。動物繊維,ナイロン等に直接染着する。セルロース繊維には親和性がないが,タンニン等で前処理すれば染めることができる。色調が鮮明で着色力も大きいが,とくに耐光性が低く,アルカリ,洗濯にも弱い。紙や皮革の着色,印刷インキ,スタンプインキ,ワニス,感光材料,有機顔料(染めつけレーキ)に用いられる。
アクリル繊維の出現とともに,塩基性染料の鮮明な色相と良好な染着性が再評価され,耐光堅牢度を改良したアクリル繊維を対象とした新塩基性染料の開発が行われた。これらを在来の塩基性染料と区別してカチオン染料cationic dyeと呼ぶ。カチオン染料は,ポリメチン系,アゾ系,アザメチン系,アントラキノン系が多い。いずれも第四アンモニウム基をもっており,これが繊維中の酸性基と結合し染着すると考えられている。色相が鮮明で,日光,洗濯にも強く,捺染にも適する。最近は混紡品の一浴染色に適する分散型カチオン染料も開発され注目されている。現在では,需要面でカチオン染料は在来型塩基性染料をはるかにしのぎ,約600品目(在来型は約100品目)にも及んでいる。
執筆者:新井 吉衞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
酸性基を含まない水溶性染料。アミン塩、第四アンモニウム基、あるいはカルボニウムイオンをもつ。酢酸酸性の染浴から絹、羊毛などの動物繊維やナイロンに直接に染まる。アセテート繊維に染まるものもある。セルロースには親和性をもたないが、あらかじめタンニンで繊維を処理しておけば、セルロースも染めることができる。
化学構造の種類は広範囲にわたっており、アゾ染料、ジフェニルおよびトリフェニルメタン染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料などがある。初期に合成された染料はすべて塩基性染料であった。色調が鮮明で着色力が大きい利点をもつ反面、一般にアルカリ、日光、洗濯に対して弱い欠点をもつので、特殊な目的に用いることが多い。雑貨、インキ、紙、皮革の着色に用いられるほか、生体染色や各種指示薬に利用されるものも多い。興味深いことに、アクリル繊維上においては、動物繊維やナイロン上よりも著しく耐光性が向上するものが多い。アクリル繊維用の耐光堅牢(けんろう)度の良好なものも開発され、鮮明色が流行した。アクリル繊維用塩基性染料を、古典的な塩基性染料と区別するためにカチオン染料とよんでいる。構造的には、第四アンモニウム基をもつアゾ染料あるいはアントラキノン染料か、一部のシアニン染料である。今日では繊維用塩基性染料はアクリル繊維用のカチオン染料が主体である。
塩基性染料は歴史的にも古く、すべての色調にわたって100種類以上のものが知られている。オーラミン、フクシン、メチレンブルー、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレットなどは、古くから知られている染料である。
[飛田満彦]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このようにして共役系が長くなるほど,また置換基などの影響でπ電子系の電荷のかたよりが大きくなるほど,染料の吸収スペクトルは長波長となり,観察される色は深くなる。
[化学構造と性質]
染色性を基として染料を分類すると,直接染料,酸性染料,塩基性染料,酸性媒染染料,金属錯塩染料,硫化染料,建染染料,硫化建染染料,アゾイック染料,分散染料,反応染料,酸化染料,油溶染料および蛍光増白剤などが挙げられる。しかしながら近年の染料部属の需要は大きく変化し,ほとんど使われなくなったもの,非常に使用量が増加したものなどさまざまである。…
※「塩基性染料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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