日本大百科全書(ニッポニカ) 「さらし粉」の意味・わかりやすい解説
さらし粉
さらしこ / 晒粉
bleaching powder
消石灰(水酸化カルシウム)に塩素を吸収させて製造される漂白剤で、1799年イギリスのC・テナントにより発明された。カルキ、クロロカルキ、クロロ石灰ともいう。名称は、「薄色にする」を意味するblaecanと、「粉末」を意味するpoudreに由来する。CaCl2・Ca(ClO)2を主成分とするが、多量の消石灰が混在するため有効塩素量は30~38%で、不溶解物が多く、貯蔵中分解しやすいので、現在日本やアメリカでは工業用には生産されていない。市販されているのは、有効塩素量が60~75%以上に高められた、高度さらし粉とよばれているもので、消石灰とカ性ソーダ(水酸化ナトリウム)の1対2モル比の混合スラリーを塩素化する工程によって製造される。
[鳥居泰男]
高度さらし粉の性質と用途
次亜塩素酸カルシウムCa(ClO)2を主成分とする白色の粉末で、有効塩素量が多く不溶性残渣(ざんさ)も少ない。安定性も優れているが、180℃以上では急激に分解発火する。また、水分や還元性物質が混入すると発火することがあるので注意を要する。水と反応して次亜塩素酸HClOを生じ、その酸化力によって強い漂白作用、殺菌作用を示す。工業的にはパルプ、繊維の漂白に用いられる。多量に用いる工場では、薄い石灰乳に塩素を通じてつくった水溶液をそのまま使用している。これをさらし液という。
[鳥居泰男]
医薬用
日本薬局方名の「サラシ粉」は、有効塩素を30.0%以上含むと規定される。漂白・殺菌剤。糞尿(ふんにょう)や喀痰(かくたん)など排泄(はいせつ)物の消毒に約2%の割で粉末を加えて攪拌(かくはん)し、1~2時間放置する。伝染病あるいは伝染病患者の使用した器具、食器の消毒、プールの消毒に用いられる。漂白作用があるので衣類の消毒には適さない。歯科用アンチホルミンの原料であるが医療用にはあまり使用されなくなった。
[幸保文治]