日本大百科全書(ニッポニカ) 「インナーシティ問題」の意味・わかりやすい解説
インナーシティ問題
いんなーしてぃもんだい
大都市は都心と郊外と、その中間に位置するインナーシティ地区の3地区からなる。最近、都心とインナーシティ地区の住宅環境が悪化し、また工場が域外に転出したために夜間人口が減少し、都市の衰退が始まり、「過密のなかの過疎」として問題化してきている。戦後の国土政策の基調は過大・過密都市の抑制と分散であり、工場規制三法によって工場と人口は流出したが、その跡地利用対策は不十分で、市場メカニズムに任された。また、郊外団地の開発は中・高所得者層の流出を招き、高齢者層が残された。しかしこれに対する政策も不十分で、高い地価や劣悪な生活環境と工場規制等のため、人口・工場の呼び戻しは困難である。東京の都心3区、大阪の都心3区、神戸の都心4区にこの傾向が顕著にみられる。これらの地区では夜間人口は激減しているが、昼間人口はオフィスビルの急増で増大している。これら日本の大都市の都心ではスラム化はしていないが、欧米の大都市では、浮浪者や外国人が増え、治安・衛生環境問題が増加している。
インナーシティ問題は、ある意味では国土政策の効果が効きすぎた一面を反映している。インナーシティ地区の再開発には巨額の資金がいるが、インナーシティ全体の体質改善が不可欠であるため、限られた資金を有効に活用した多彩な政策展開が必要である。
[伊藤善市]