ウィルソン病(読み)ウィルソンビョウ(その他表記)Wilson Disease

家庭医学館 「ウィルソン病」の解説

うぃるそんびょう【ウィルソン病 Wilson Disease】

[どんな病気か]
 体内の微量金属である銅が、肝細胞(かんさいぼう)から胆汁(たんじゅう)中へうまく排泄(はいせつ)されない(排泄障害(はいせつしょうがい))で、肝細胞に沈着(ちんちゃく)する代謝性疾患(たいしゃせいしっかん)です。さらに、血液中の過剰な銅が、脳、腎臓(じんぞう)、角膜(かくまく)などに沈着し、それらの臓器器官に障害をおこします。
[症状]
 肝型、神経型、混合型があります。
 肝型は肝臓への銅沈着によって、脂肪肝(しぼうかん)、急性および慢性の肝障害、やがて肝硬変(かんこうへん)をおこします。
 神経型は動作緩慢(どうさかんまん)、運動失調などの中枢神経症状(ちゅうすうしんけいしょうじょう)をおこします。
 混合型は肝障害と神経症状をおこします。
 ウィルソン病の三大症状は、肝硬変症、目の周辺にできる茶色の輪状着色(りんじょうちゃくしょく)(カイゼル・フライシェル角膜輪(かくまくりん))、中枢神経症状です。
 肝型は小児に多く、小児や青少年に肝障害がある場合は、この疾患を疑う必要があります。
 最悪の場合、肝硬変末期の肝不全(かんふぜん)、食道静脈瘤破裂(しょくどうじょうみゃくりゅうはれつ)、急性肝不全のいずれかによって、死に至ることもあります。
 原因は、常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)による13番染色体の異常です。
[検査と診断]
 若い人に前記の三大症状があれば、この疾患が疑われます。
 検査をして、血清(けっせい)セルロプラスミンの低値、尿中銅排泄(にょうちゅうどうはいせつ)の増加がみられ、肝臓組織を微量採取して調べる肝生検(かんせいけん)によって、肝細胞の銅イオン濃度が増加していれば診断がつきます。
 最近では遺伝子診断も行なわれています。
 家族内発症を調べるためには、家族の血清セルロプラスミン値の測定が行なわれます。
[治療]
 銅キレート剤を内服し、銅含有量の多いチョコレート、貝類、レバーピーナッツ、海藻類の摂取(せっしゅ)をひかえます。
 欧米では肝移植(かんいしょく)が行なわれることがあります。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィルソン病」の意味・わかりやすい解説

ウィルソン病
うぃるそんびょう

銅代謝の先天性異常によっておこる疾患。遺伝形式は常染色体潜性遺伝である。肝硬変、錐体(すいたい)外路症状が主徴で、肝レンズ核変性症ともよばれる。1912年イギリスの神経医で病理学者のウィルソンSamuel Alexander Kinnier Wilson(1877―1937)によって記載されたので、この名でよばれる。

 体内に銅が異常に蓄積し、肝臓や大脳半球の深部にあるレンズ核では正常の5~10倍にもなり、組織が破壊される。発症はすべての年齢にみられるが、10~20歳と50~60歳にピークがある。若年発症では筋緊張の亢進(こうしん)、動作や言語の緩慢、構語障害、不随意運動、運動失調を示すが、高年発症では筋緊張は目だたず、振戦(ふるえ)を主徴とすることがあり、これを仮性硬化症とよんで区別する人もある。肝障害は若年発症で早くおこる傾向がある。銅の沈着によって角膜辺縁部に緑色ないし褐色のカイザー‐フライシャーKayser-Fleischer角膜輪を生ずることが多く、診断的価値がある。銅の尿中排泄(はいせつ)は増加しており、血漿(けっしょう)中の銅は減少しているが、これは、銅を結合する特殊タンパクであるセルロプラスミンの合成障害による。大部分の患者では、セルロプラスミンの測定によって診断が確定する。

 治療にはペニシラミンやトリエンチンといったキレート剤の投与が有効である。また、副作用が少ないとされる酢酸亜鉛製剤が、2008年に日本でも承認され、使用されている。厚生労働省の小児慢性特定疾病治療研究事業の対象となっており、医療費の補助が受けられる。

[高橋善弥太]

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改訂新版 世界大百科事典 「ウィルソン病」の意味・わかりやすい解説

ウィルソン病 (ウィルソンびょう)
Wilson disease

肝レンズ核変性症ともいう。伴性劣性遺伝による銅代謝異常疾患である。1912年にウィルソンS.A.K.Wilsonにより病態が明らかにされたことから,この名称が用いられている。病態は,おもに脳と肝臓に過剰の銅が沈着することにより生じる。脳のレンズ核の神経細胞の変性により,筋肉の緊張亢進や不随意運動が生じ,四肢の震え,運動障害,言語障害が起こるが,知能低下は生じない。肝臓には肝細胞変性,脂肪貯留が生じ,しだいに肝硬変へと進行する。その結果,門脈圧亢進症,食道静脈瘤などを合併するようになる。溶血発作をくりかえし生じることもある。角膜に生じた銅沈着による緑色の輪はカイザー=フライシャー輪Kayser-Fleischer ringと呼ばれ,この病気に特徴的な所見である。組織中への銅沈着の増加は,患者血清中のセルロプラスミンceruloplasmin(銅と結合し,運搬するタンパク質)が少ないことが最大の原因とされている。治療は,銅と結合しその糞便中への排出を増加させる作用を有するD-ペニシラミンの長期投与による。
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百科事典マイペディア 「ウィルソン病」の意味・わかりやすい解説

ウィルソン病【ウィルソンびょう】

肝レンズ核変性症ともいう。遺伝性・進行性の,きわめてまれな疾患で,脳や肝臓に健康時の10倍以上の銅が沈着し,肝硬変と大脳基底核変化を起こす。角膜周辺には緑褐色の色素沈着が起こる。振顫(しんせん)と筋強剛が病初からみられ,しばしば,からだが動かせなく運動失調に進み,ふさぎこむなどの神経症状をきたす。徐々に進行する場合は,ペニシラミンを用いて銅の排泄を促進させることによって,ある程度の進行を抑えることができる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウィルソン病」の意味・わかりやすい解説

ウィルソン病
ウィルソンびょう
Wilson's disease

イギリスの医師 S.ウィルソン (1878~1936) によって分類された疾患で,肝レンズ核変性症ともいう。肝臓と脳に銅が異常蓄積する遺伝性の病気。幼児期に発病し家族性に現れる,きわめてまれな疾患。銅が肝臓に異常蓄積するため肝硬変が起り,また脳では基底核の軟化あるいは変性の結果,錐体外路症状として全身の筋肉に強直が起り独特の震えが伴う。またフライシェル・カイゼル角膜環といって,両眼の角膜の周辺に銅の沈着によって緑褐色の特徴ある環が形成される。

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栄養・生化学辞典 「ウィルソン病」の解説

ウイルソン病

 肝臓や脳,腎臓などに異常に銅が蓄積する劣性遺伝的疾病で,肝硬変,脳障害が起こる.

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世界大百科事典(旧版)内のウィルソン病の言及

【肝機能検査】より

…この肝炎は慢性化しやすい。以上のほかに,特殊な肝臓疾患と関連した物質としてウィルソン病の診断をするため血清セルロプラスミン,ヘモクロマトージスに対しては血清鉄濃度および血清不飽和鉄結合能,原発性胆汁性肝硬変の診断に抗ミトコンドリア抗体,肝臓癌の診断には血清α‐フェトタンパクの測定が行われている。肝炎
[肝障害に伴う非特異的生体反応物質の測定]
 慢性肝炎や肝硬変では血清中の免疫グロブリン濃度が増大することが知られている。…

【ジストニー】より

…一定の肢位(たとえば起立位)をとるときに,筋緊張が異常に高まり,随意運動が妨げられ,変形した肢位に固定される。ひとつの症候群で,痙性斜頸spasmodic torticollis,ウィルソン病パーキンソン症候群など,種々の疾患にともなって出現する。また,ジストニーを呈する疾患のひとつである捻転ジストニーtorsion dystoniaあるいは変形性筋ジストニーdystonia musculorum deformansは,腰部前彎,胸部後屈,骨盤捻転,四肢の内転・内旋など,全身性のジストニーを呈し,起立時,歩行時に著しい。…

【先天性代謝異常】より

…(7)色素代謝異常 ポルフィリン代謝異常,ビリルビン代謝異常がある。(8)金属代謝異常 ウィルソン病,メンケス病など。(9)核酸代謝異常 レッシュ=ナイハン症候群,先天性痛風など。…

※「ウィルソン病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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