ウィルソン病(読み)うぃるそんびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィルソン病」の意味・わかりやすい解説

ウィルソン病
うぃるそんびょう

銅代謝の先天性異常によっておこる疾患。遺伝形式は常染色体潜性遺伝である。肝硬変錐体(すいたい)外路症状が主徴で、肝レンズ核変性症ともよばれる。1912年イギリスの神経医で病理学者ウィルソンSamuel Alexander Kinnier Wilson(1877―1937)によって記載されたので、この名でよばれる。

 体内に銅が異常に蓄積し、肝臓大脳半球深部にあるレンズ核では正常の5~10倍にもなり、組織が破壊される。発症はすべての年齢にみられるが、10~20歳と50~60歳にピークがある。若年発症では筋緊張の亢進(こうしん)、動作や言語の緩慢、構語障害、不随意運動、運動失調を示すが、高年発症では筋緊張は目だたず、振戦(ふるえ)を主徴とすることがあり、これを仮性硬化症とよんで区別する人もある。肝障害は若年発症で早くおこる傾向がある。銅の沈着によって角膜辺縁部に緑色ないし褐色カイザー‐フライシャーKayser-Fleischer角膜輪を生ずることが多く、診断的価値がある。銅の尿中排泄(はいせつ)は増加しており、血漿(けっしょう)中の銅は減少しているが、これは、銅を結合する特殊タンパクであるセルロプラスミンの合成障害による。大部分患者では、セルロプラスミンの測定によって診断が確定する。

 治療にはペニシラミンやトリエンチンといったキレート剤の投与が有効である。また、副作用が少ないとされる酢酸亜鉛製剤が、2008年に日本でも承認され、使用されている。厚生労働省の小児慢性特定疾病治療研究事業の対象となっており、医療費の補助が受けられる。

[高橋善弥太]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウィルソン病」の意味・わかりやすい解説

ウィルソン病
ウィルソンびょう
Wilson's disease

イギリスの医師 S.ウィルソン (1878~1936) によって分類された疾患で,肝レンズ核変性症ともいう。肝臓と脳に銅が異常蓄積する遺伝性の病気。幼児期に発病し家族性に現れる,きわめてまれな疾患。銅が肝臓に異常蓄積するため肝硬変が起り,また脳では基底核の軟化あるいは変性の結果,錐体外路症状として全身の筋肉に強直が起り独特の震えが伴う。またフライシェル・カイゼル角膜環といって,両眼の角膜の周辺に銅の沈着によって緑褐色の特徴ある環が形成される。

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