改訂新版 世界大百科事典 「ウィンザーチェア」の意味・わかりやすい解説
ウィンザー・チェア
Windsor chair
17世紀後期にイングランドの地方の挽物師(ひきものし)たちが製作したろくろ加工による素朴ないす。主として田舎の地主階級の邸宅や町家の居間や食堂で使われていたが,18世紀になるとその形態も整って旅館のロビーやオフィス,大都市の上流家庭の台所や召使い部屋でも流行し,庶民のいすとして多くの支持を受けた。1720年代にはアメリカにも渡り,このいすの簡素で実用的な形態が植民地の生活様式に適合して,非常な流行をもたらした。このいすの名称は18世紀後期にジョージ3世がウィンザー城の王室でこのタイプのいすを愛用していたことに由来するといわれるが,定かではない。このいすの特徴はニレ材の厚い座板にブナ材の脚と細長い背棒,透し彫の背板などすべての部材を直接に接合した点にある。脚部を丈夫にするためにH型や牛角型の貫(ぬき)で連結し,座りをよくするために座板は鞍形に削られる。ウィンザー・チェアの基本タイプには,初期の背もたれがコームバック(櫛背型)のものと,18世紀中期からのアッシュ材の背枠を弓状に湾曲させた流麗なボウバック(弓背型)があり,後者はその後のウィンザー・チェアの主役となった。18世紀後期にはイギリスの各地で数百にも及ぶ独自なタイプが製作された。なかでも背板にホイール(車輪)の透し彫を飾ったホイールバック・ウィンザーがとくに人気を得た。19世紀にはローバックのスモーカーズ・ボウとよぶタイプがパブやコーヒー店の喫煙室,学校やオフィスの事務用いすとして幅広く利用された。背もたれにバックル型の横木をつけた小型のウィカム・ウィンザーWycombe windsorも婦人用のいすとして流行した。19世紀後半にはスカンジナビア諸国をはじめ,スペイン,イタリアなどヨーロッパ諸国にも多量にウィンザー・チェアは輸出された。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報