改訂新版 世界大百科事典 「うがち」の意味・わかりやすい解説
うがち
江戸中期の戯作(げさく)文学における重要な表現法の一つ。当時,軽々には人の気づかない世相風俗の現象や,人間の性癖・欠陥等を“あな(穴)”と称して,その“あな”を指摘することを好む風潮があり,それを俗文芸に表現する時の手法としたのが“うがち(穿)”である。1750年前後(寛延~宝暦),江戸における談義本の中に顕著にあらわれ,以後洒落本,滑稽本,黄表紙等,いわゆる江戸戯作の中心的手法となった。それは一見風刺や教訓と酷似するが,戯作の本質がもっぱら滑稽性の醸出という点にあるので,“うがち”ももっぱら人の意表をつく意外性と誇張性とが強調されて,より裏面観・側面観に徹し,滑稽性を増幅するために用いられる。
執筆者:中野 三敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報