談義本(読み)ダンギボン

デジタル大辞泉 「談義本」の意味・読み・例文・類語

だんぎ‐ぼん【談義本】

江戸時代宝暦(1751~1764)から安永(1772~1781)ごろにかけて多く刊行された滑稽こっけいな読み物。宝暦2年刊静観坊じょうかんぼう好阿の「当世下手談義いまようへただんぎ」に始まる。談義僧講談師などの口調をまね、おかしみの中に教訓をまじえ、社会諸相風刺した。滑稽本先駆をなす。談義物

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精選版 日本国語大辞典 「談義本」の意味・読み・例文・類語

だんぎ‐ぼん【談義本】

  1. 〘 名詞 〙 江戸時代、宝暦(一七五一‐六四)から安永・天明(一七七二‐八九)頃にかけて江戸を中心に流行した滑稽通俗小説。宝暦二年刊の静観房好阿(じょうかんぼうこうあ)作「当世下手談義(いまようへただんぎ)」に始まる。談義僧の口調をまね、滑稽の中に教訓を託し、また庶民風俗を鋭く風刺して描くところに特色があり、のちの滑稽本の先駆となった。伊藤単朴の「俚俗教談銭湯新話」、風来山人(平賀源内)の「根南志具佐」「風流志道軒伝」などが著名。談義物。

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改訂新版 世界大百科事典 「談義本」の意味・わかりやすい解説

談義本 (だんぎぼん)

江戸時代の1752年(宝暦2)から89年(寛政1),寛政改革で弾圧されるまで流行した風刺的な小説の総称。当時〈教訓本〉〈よみ本〉〈談義本〉などといわれたが,実際は1752年の静観坊好阿(じようかんぼうこうあ)の《当世下手談義(いまようへただんぎ)》から始まった小説であるから,〈談義本〉という呼称が適当であろう。《下手談義》は宝暦の世相を風刺した滑稽小説であるが,大きな反響を呼び,《教訓雑長持》《当風辻談義》などの後続作を生んだ。そして宝暦期の終りに平賀源内の《根南志具佐(ねなしぐさ)》《風流志道軒伝》の2作が出て,《下手談義》とともに〈宝暦始終の華なり〉(《古朽木》)と称賛された。明和期(1764-72)に入ると,《当世不問語(とわずがたり)》《当世穴鑿穿(あなさがし)》《興談浮世袋》《当世穴噺》といった世間の“”をさがしこれを暴露する談義本が流行したが,これらには好阿・源内の影響が強く見られる。この傾向は安永期(1772-81)に入っても,ますますさかんになってゆくが,1774年に出た遊谷子《異国奇談和荘兵衛》は,《風流志道軒伝》の影響下に出たとはいえ,和荘兵衛が自在国,矯飾国,好古国,自暴国などを巡る風刺的遍歴小説として好評であった。また談義本の一系統である粋(いき)談義も,1754年(宝暦4)刊の《当世花街(くるわ)談義》以来,宝暦・明和・安永・天明を通じて流行した。しかし寛政改革は,当時の黄表紙や洒落本への弾圧と同じく,談義本にも打撃を与え,談義本は風刺性を失い,馬琴などの読本に席を譲った。
談義
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「談義本」の意味・わかりやすい解説

談義本
だんぎぼん

享保(きょうほう)(1716~36)のなかばごろから安永(あんえい)・天明(てんめい)(1772~89)ごろまで、主として庶民教化を看板に掲げて、種々の社会風俗の微細な欠陥を笑いを交えて指摘し、描写するのを旨とした滑稽本(こっけいぼん)の一群をいう。基本型は半紙本四冊から五冊の藍色(あいいろ)表紙。初期は徳川吉宗(よしむね)の享保の改革政治に従った庶民童蒙(どうもう)教化運動の一端として位置し、増穂残口(ますほざんこう)の『艶道通鑑(えんどうつがん)』による世相批判や佚斎樗山(いっさいちょざん)の『田舎荘子(いなかそうじ)』に発する教訓寓話(ぐうわ)の形式をとるが、静観坊好阿(じょうかんぼうこうあ)作『当世下手(いまようへた)談義』(1752)によって仏教談義の舌講調が文章に採用され、世俗卑近の話題が豊富に取り上げられるに至って、その滑稽な内容と表現は大いに歓迎されて江戸を中心に流行し、談義本の名がある。さらに伊藤単朴(たんぼく)作『銭湯新話(せんとうしんわ)』などが続くが、やがて内容の教訓性よりも世相一般の穴探しのほうへと趣向が移り、ますます滑稽性を増大させて、滑稽本の世界を生み出す母体となる。後期江戸小説の出発点でもある。

[中野三敏]

『中野三敏著『戯作研究』(1981・中央公論社)』

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百科事典マイペディア 「談義本」の意味・わかりやすい解説

談義本【だんぎぼん】

江戸時代の小説の一種。談義は仏教の説法の意であったが,江戸期には芸能化して世相を風刺する滑稽な咄(はなし)によって評判を得た談義僧が輩出した。その談義の影響を受けて発生した風刺的な滑稽(こっけい)教訓書。宝暦〜安永ごろ盛行。滑稽本の源流。代表作家は静観坊好阿(じょうかんぼうこうあ),風来山人平秩東作(へずつとうさく)ら。代表作は《当世下手談義(いまようへただんぎ)》《根南志具佐(ねなしぐさ)》《風流志道軒伝》等。
→関連項目江戸文学滑稽本

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「談義本」の意味・わかりやすい解説

談義本
だんぎぼん

江戸時代中期の戯作 (げさく) の一種。いわゆる滑稽本の先駆をなした。享保 12 (1727) 年の丹羽樗山作『田舎荘子』などを源流とするが,直接には宝暦2 (52) 年刊の静観坊好阿作『当世下手 (いまようへた) 談義』が最初。談義僧の口調を写し,江戸の風俗を忠実に描きながら滑稽のうちに庶民教化をねらったもので,以後,明和から安永にかけて続々と刊行され,教訓的な滑稽が江戸町人に迎えられた。なかでも平賀源内 (風来山人) の『根無草 (ねなしぐさ) 』 (63) ,『風流志道軒伝』は教訓より痛烈な風刺によって談義本の流れを変えた。次第に川柳,黄表紙,洒落本などに取って代られ,滑稽だけを描く滑稽本へと転進した。

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世界大百科事典(旧版)内の談義本の言及

【戯作】より

…江戸中期に知識人の余技として作られはじめた新しい俗文芸をいう。具体的には享保(1716‐36)以降に興った談義本洒落本(しやれぼん)や読本黄表紙,さらに寛政(1789‐1801)を過ぎて滑稽本(こつけいぼん),人情本合巻(ごうかん)などを派生して盛行するそのすべてをいう。またその作者を戯作者と称する。…

【諸神本懐集】より

…真宗僧存覚の著した談義本。奥書によると,元亨4年(1324)1月12日,仏光寺了源の要請により,当時流布していた一本を添削して製作したという。…

※「談義本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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