改訂新版 世界大百科事典 「エイスフォラ」の意味・わかりやすい解説
エイスフォラ
eisphora
古代ギリシアの戦時特別財産税。おもに前5~前4世紀アテナイにおいて国家財政窮乏の折,戦費捻出を目的として一定額以上の財産を所有する市民と在留外人(メトイコイ)に課せられた。徴収が確認できるのは前428年から。前378年には徴収機構の改革が行われ,納税義務者はシュンモリアsymmoriaと呼ばれた納税団体に分けられ,またそのうちとくに300人の最富裕者には緊急の場合,税の一括前納(プロエイスフォラproeisphora)が義務づけられることによって徴収の迅速・円滑化が図られた。税率は普通,申告された財産額の1%ほどであったが,前納の場合には財産総額の1/3という高率であった。納税者の中には繰り返される徴収のため滞納する者も出て,家計にとっては大きな負担となった。前5世紀のアテナイは,デロス同盟からの貢納金(フォロス)に依存する度が強かったが,ペロポネソス戦争の敗北でその財源も失ったため,前4世紀にはエイスフォラは国家財政にとって非常に重要な財源となり,一時国家財政の逼迫時には全国家収入の1/2ほどの額に達することもあった。しかしポリスの自治・独立が失われたヘレニズム期以降は,ヘレニズム君主やローマの支配のための収奪機構へと変質してしまった。エイスフォラ制度はアテナイのほか,スパルタ,ミレトス,シフノス,メッセネなどのギリシア諸都市にもその存在が知られている。
執筆者:古川 堅治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報