改訂新版 世界大百科事典 「エコー装置」の意味・わかりやすい解説
エコー装置 (エコーそうち)
echo machine
エコーはギリシア神話の森のニンフの名に由来し,本来は山彦のことである。室内音響では,これを反響と名づけ,音源から直接に到来した音波に対し,それと聴感上区別できるような時間遅れをもつ反射音波をいう。反響に対し,音が室内の壁や天井,床などで反射を繰り返し全体に響く響きを残響という。しかし,用語の上で両者は混用されており,残響をエコーと俗称することが多い。一般にエコー装置とは人工的に音に残響を付加する装置をいい,リバーブレーターreverbrater,リバーブマシンreverb machineなどとも呼ばれている。録音や放送,ホールの演奏などで,この装置は音楽に豊かな響きをつけたり,ドラマの情景描写や心理的効果のために用いられる。現在使用されているエコー装置には,エコールームや鉄板式残響付加装置と時間遅延装置を利用した諸方式がある。エコールームとは音がよく反射するコンクリートやタイルのような材料で内装を処理した部屋のことで残響が長い。この中にスピーカーで音を放射し,マイクでその響きを収音してもとの音に付加する方法をとっている。鉄板式残響付加装置はつるした鋼板の1点を信号で加振し,長時間継続する振動をピックアップして利用する方式であり,プレートを小型にするため金箔を用いた装置もある。また残響は時間遅れがある反射音群の合成されたものとみることができるので,時間遅れの信号を作る時間遅延装置が利用されている。時間遅延装置には,(1)磁気テープ録音再生機の録音と再生のヘッド間隔による時間遅れと再生ヘッドから録音ヘッドへの信号の帰還回路を利用した方式,(2)スプリングのよじれ振動の伝播(でんぱ)速度が遅い性質を利用して,その一端を信号で駆動して中間点や他端で時間遅れの信号をピックアップする方式,(3)長い音響パイプの中を音を伝播させて時間遅れを作る方式,(4)電荷結合デバイスやBBD(bucket brigade deviceの略)などを利用した電子回路で時間遅れを作るアナログ電子方式,(5)ディジタル電子方式などがある。ディジタル電子方式はアナログ信号をディジタル信号に変換して時間遅延の処理を行う方式で,シフトレジスターshift registerによる方法とRAM(random access memoryの略)による方法に分類される。これを利用したエコー装置ではRAMに蓄えられた信号を中央処理装置により高速演算処理して残響音を合成している。この方式は,(1)SN比がよい,(2)外部環境に支配されない,(3)反射音構成が多種多様にできるなどの利点をもつので,最近広く使用されるようになり,時間遅延装置およびこれを利用したエコー装置の主流になるものと考えられる。時間遅延装置は反響や残響の効果を作るのに用いられるばかりでなく,収音システムや拡声システムの中でいろいろと利用されている。また各種の音響特殊効果やテレビ番組制作における映像と音声を同期させるリップシンクlip sync,レコードの可変ピッチカッティングにおける制御信号を得るための先行信号再生機能などに広く応用されている。
執筆者:田中 茂良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報