旧約聖書偽典中の書。エチオピア語とスラブ語の2種類がある。(1)エチオピア語《エノク書》の現存する完本は,アラム語原典のギリシア語訳からの重訳本。ほかにアラム語,ヘブライ語,ギリシア語,ラテン語の断片が発見されている。内容は,審判の日の描写,天使論,天上・地上・地下を巡るエノクの旅行記,気象学・天文学的解説,メシア論,大洪水の預言,アダムからメシアの到来に至る全歴史の象徴的言語による概観等である。本書はクムラン教団と密接な関係にあったが,同教団の著作ではない。37~71章(通称〈たとえの書〉)は〈人の子〉像を含むメシア論のゆえに,キリスト教のメシア論との比較でとり上げられるが,これを3世紀のキリスト教徒の手に帰する有力な説がある。(2)古代教会スラブ語訳により伝えられる《エノク書》は,エジプト(おそらくアレクサンドリア)のユダヤ人が1世紀ごろにギリシア語で著したものの訳で,エチオピア語《エノク書》と共通の主題を多く扱っており,共通のエノク伝承にさかのぼる可能性はあるが,個々の内容はひじょうに相違している。
執筆者:土岐 健治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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