コンセプチュアル・アーティスト。東京生まれ。本名小野洋子。銀行家だった父の仕事の事情で幼少より日本とアメリカに住む。学習院大学で哲学、ニューヨークのサラ・ローレンス・カレッジで芸術を学ぶ。
1956年(昭和31)から最初の夫で作曲家の一柳慧(いちやなぎとし)とニューヨークに住み、1960年からチャンバー・ストリートのロフトを借りて、音楽家ラ・モンテ・ヤングLa Monte Young(1935― )とともにパフォーマンス・イベントを企画し、一柳とともに出演する。それを通してフルクサスの主唱者ジョージ・マチューナスGeorge Maciunas(1931―1978)と出会い、彼の勧めで、1961年にAGギャラリー(ニューヨーク)で「インストラクション・ペインティング」の展示を行う。それは、「キャンバスに毎日水をやる。1楽章:芽をだすまで……」といった具合に短い詩のような「指示」がキャンバスの上に書かれた作品で、観客はそれをもとに可能な「絵画」を想像するよう促された。そこでは「絵画」は完成した形態ではなく可能性として定義し直され、作り手はアーティストから観客に変換されていた。「コンセプチュアル・アート」ということばが提唱される以前から、オノは、固定された作品ではなく、ことばや小さな日常的行為によって触発される想像の力や、人間同士の関係性を重視していた。そこには、ジョン・ケージの思想とともに禅の公案の影響も深く表れていた。
パフォーマンス、イベント、インストラクション、彫刻、フィルム、ビデオ、公共広告を利用したパブリック・メッセージといった媒体すべてにおいて先鋭的な表現を行ったが、1964年から1967年にかけてはとくに重要な作品が多い。
1964年には『グレープフルーツ』Grapefruitを自費出版(後に『グレープフルーツ・ジュース』Grapefruit Juiceとして改訂)。同年7月20日正装して座る彼女の服から観客が一鋏(はさみ)ずつ布を切り取っていくパフォーマンス「カット・ピース」が京都の山一ホールで初演され、翌21日京都・南禅寺での「夕べから夜明けまで」というイベントでは、「触る」と書かれた紙を渡された観客が、互いに触れたり月を見たりして瞑想(めいそう)的な時間を過ごした。
1966年にはニューヨークの彼女のロフトの家具を取り払い、すべてを白く塗った空間を訪れた人々が床や天井などに貼られた小さな文字のインストラクション(「この部屋は鮮やかな青だ」など)を見てもう一つの現実を想像する「ブルールーム・イベント」が開かれた。それは、同年ロンドンのインディカ・ギャラリーで展示された、梯子(はしご)の上の板に書かれた「Yes」という文字を虫めがねで読む『天井ペインティング』につながっていった。1966年にはオノはほかにも、ガラス窓の上にプレクシグラス(透明な合成樹脂)を設置して夕方の光を見る『夕焼けを通過させる絵画』や、生のリンゴをプレクシグラスに置いて会期中その腐敗と消滅を見届けた『リンゴ』のように、時間の変化や光、生の過程といった普段気がつかない変化が「彫刻」の素材として使われる作品を発表した。
映像でも、1966年には、知人の尻だけを1人1フレームで撮影した『No. 4』、当時新しかったビデオカメラで空をとってテレビに映像を送った『Sky TV』といったウォーホル、マイケル・スノーMichael Snow(1928―2023)、ナム・ジュン・パイクの影響を受けた実験的な作品を制作した。一方、路上で会った女性に向けたカメラの執拗(しつよう)な追跡が彼女をパニックに陥れる1969年の『レイプ』や、女性の裸の体の上を動くハエの軌跡を追った1970年の『ハエ』など、フェミニズム的メッセージを含んだフィルムも制作した。
3人目の夫ジョン・レノンとともに1969年「戦争は終った、もし君が望むなら」と書かれた15の掲示板を世界の12都市に設置し、同じメッセージをポスター、飛行機による煙文字、新聞広告として発表。反戦を訴えたこの2人の行為は、介入型パブリック・アートのもっとも早い形の一つとも考えられる。1971年にシラキュースのエバーソン美術館で回顧展。1990年代オノの先見性の再評価がさまざまな分野で進み、2001年にはニューヨークでジャパン・ソサエティ回顧展「Yes; Yoko Ono」が開催された。
[松井みどり]
『『グレープフルーツ・ジュース』(講談社文庫)』▽『Bruce Althtshuler et al.Yes; Yoko Ono(2000, Harry N. Abrams, New York)』
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