アメリカのポップ・アートの代表的画家、立体作家、映画製作者。ペンシルベニア州ピッツバーグでチェコスロバキア移民の両親のもとに生まれた。父親は鉱夫をしていた。同地のカーネギー工科大学で絵画、デザインを学んだのち、デザイナーとしてニューヨークで働く。繊細な線描によるイラストにより、1950年代末までにはコマーシャル・デザインの世界で知名度を得ていた。しかし、その名声を決定的なものにしたのは、抽象表現主義の反動としてクールで平面的な絵画を制作していたジャスパー・ジョーンズなどの知己を得て、画家に転進を図った1960年代初頭からである。
このころから漫画の一こま、キャンベル・スープの商標、ドル紙幣、新聞の報道写真の一場面、映画女優のブロマイドなど大量生産・大量伝達される通俗な日常品のイメージをシルクスクリーンで拡大転写する絵画によって、画壇に衝撃を与えた。他人の写真を「みいだされたオブジェ」のように無関心に転写する手法はクールで感情を排除し、非個性的な匿名性をあらわにするもので、その構図も同じイメージを機械的に無限に反復・増殖させる特徴をもつ。事実、彼はニューヨークの西47丁目の倉庫用ビルを改装したアトリエを「ファクトリー(工場)」とよび、複写による絵画を量産し、1963年からは実験映画の製作にも乗り出した。初期の映画作品『スリープ』(1963)、『エンパイア』(1964)から『チェルシー・ガールズ』(1966)などは、固定カメラを用いて長時間撮影し、作者が手を加えず無編集のままカメラの記録のみに委(ゆだ)ねるもので、その絵画と同様、作者の表現を最低限に抑制しようとするものである。この発想は、その後のミニマル・アートを先取りしたものといえよう。
1968年、ウォーホルの映画にも出演した過激な女権拡張論者バレリー・ソラナスValerie Solanas(1936―1988)によって、ユニオン・スクエア・ウェストに移した新しい仕事場で殺害目的の狙撃(そげき)を受け、瀕死(ひんし)の重傷を負ったが、九死に一生を得た。そのころには活動領域は大きく広がり、ロック・グループ「ベルベット・アンダーグラウンド」を結成し、独自の映像によるライト・ショーを興行化するなど、すでに1960年代芸術のスター的存在となっていた。
その後の絵画には、写真転写による友人の肖像、過去の名作からの引用などの変化がみられるが、他方、1973年にフランケンシュタイン、ドラキュラなどの商業映画の製作も手がけ、個人的な月刊誌『インタビュー』を主宰して著作を発表するなど、ポップ・アーティストとして芸術と大衆文化の両面またがる幅広い活動を行った。
1987年、胆嚢(たんのう)手術を受けた直後に死去。1994年、ピッツバーグにアンディ・ウォーホル美術館が開館した。
[石崎浩一郎]
『ピーター・ジダル著、チハーコーヴァー・ヴラスタ訳『アンディ・ウォーホル』(1978・パルコ出版局)』▽『日向あき子著『アンディ・ウォーホル』(1987・リブロポート)』▽『カーター・ラトクリフ著、日向あき子・古賀林幸訳『アンディ・ウォーホル』(1989・美術出版社)』▽『アンディ・ウォーホル著『アンディ・ウォーホル』(1990・新潮社)』▽『アンディ・ウォーホル述、マイク・レン編、上田茉莉恵訳『Pop words アンディ・ウォーホル』(1991・アップリンク)』▽『紀乃公子著『アンディ・ウォーホル――モンローと工場とスープ缶』(1992・メディアファクトリー)』▽『ナット・フィンケルスタイン写真・文、金井詩延訳『アンディ・ウォーホル 1964―1967』(1994・マガジンハウス)』▽『フレイダ・フェルドマン、イョルグ・シェルマン編、木下哲夫訳『アンディ・ウォーホル全版画――カタログ・レゾネ 1962―1987』増補改訂新版(1997・美術出版社)』▽『アイヴァン・ヴァルタニアン、ゴリーガブックス監修、細谷由依子訳『アンディ・ウォーホル50年代イラストブック』(2000・新潮社)』▽『クラウス・ホネフ著『アンディ・ウォーホル 1928―1987』(2001・タッシェン・ジャパン)』
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アメリカの美術家,映画作家。ポップ・アートの典型的作家。チェコスロバキアからの移民の家庭に生まれる。1960年までは,広告やイラストレーションの分野で活躍。62年,マリリン・モンローの肖像やコカ・コーラの瓶をシルクスクリーンで繰り返し描いて並列させた作品で話題を呼ぶ。アメリカ大衆社会の虚像的イコンを主題とし,感情移入を伴わないマス・メディアを借りた手法で描くのが特徴。また,眠っている男や摩天楼を固定焦点で長時間撮影した映画を製作し,日常の退屈な空白な時間を強調した。その作品にはつねに死の匂いがある。
執筆者:東野 芳明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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