無限に大きな宇宙で、夜空がなぜ暗いのかという疑問のこと。オルバースのパラドックスともいう。ドイツの天文学者で医者のオルバースの論文『夜空の透明度について』に由来して、この名がある。夜空が暗いのは、太陽が見えないからだと考えるかもしれないが、ことはそれほど単純ではない。夜空には星がある。夜空の一点を見た場合、視線をどんどん延長していくと、無限大の宇宙なら、かならず視線はどこかの星に達する。つまり、夜空はどこを見ても、星がぎっしり詰まっているはずで、もしそれらの星が太陽と同じようなものとすると、夜空は6000K(ケルビン)の温度に相当する黒体放射の光で覆い尽くされていることになる。
この背理に初めて気がついたのはケプラーで、このため彼は有限宇宙説を採用した(1610)。オルバースは、星の光が途中で吸収されるので、この難問は解決できると考えたが(1823)、吸収された光はいずれ再放出されるので、解決にはなっていないと、イギリスの天文学者ハーシェルは1848年に指摘している。
問題の真の解決は、20世紀になって発見された「宇宙の膨張」にあるというよりはむしろ「宇宙の年齢の有限性」にある。遠方を見ることは、昔にそこを出発した光を見ることだから、過去を見ていることになる。視線をどんどん延長すると、宇宙のどんどん過去を見ることになり、約130億光年のかなたで宇宙の始まりに遭遇し、それより遠くは見ることができない。宇宙自体は無限大であるとしても、宇宙の年齢が有限であるため、視線を無限に延長することはできないのである。宇宙の年齢が有限であることは、現代のビッグ・バン宇宙論の帰結である。
[松田卓也]
『堀源一郎著『宇宙はどこまで広がっているか』(1986・岩波書店)』▽『森本雅樹著『宇宙の旅200億年』(1987・岩波書店)』▽『池内了著『宇宙論のすべて』(1998・新書館)』▽『J. M. Overduin, P. S. WessonDark Sky, Dark Matter(2002, Institute of Physics Publishing, Bristol)』
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