カインの末裔(読み)かいんのまつえい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カインの末裔」の意味・わかりやすい解説

カインの末裔
かいんのまつえい

有島武郎(たけお)の短編小説。1917年(大正6)7月『新小説』に発表。一部改稿して、翌年2月新潮社刊『有島武郎著作集』第3集に収録。「自己を描出したに外ならない『カイン末裔』」(1919・1『新潮』)で作者自身が述べているように、無知で野性的な主人公仁右衛門が、「生きねばならぬ激しい衝動」に動かされて、農場社会からは疎外され、北海道の過酷な自然とも闘って敗れる「苦しい生活の姿」を描く。主人公には、実際に有島農場で働いていたモデルが確認されているが、作者自身の「生に対する執着」という人間認識を仮託した人物であることは、自註(じちゅう)に明らかである。このほか、聖書に取材した神話的な題名の問題や、農場問題との関係など、多様な側面をもっている。

[山田俊治]

『『カインの末裔』(角川文庫)』

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