改訂新版 世界大百科事典 「カシラエビ」の意味・わかりやすい解説
カシラエビ
カシラエビ亜綱Cephalocaridaに属する甲殻類の総称。現生甲殻類のうちもっとも原始的な特徴をもち体長3mm以下と微小。1926年,スカウアーフィールドD.J.Scourfieldによって,イギリスのスコットランド東部,アバディーンシャー州のライニーの古生代デボン紀の中部あるいは下部の地層から発見された体長約3mmの化石甲殻類の一種は,現生甲殻類のうちではホウネンエビ類(鰓脚亜綱無甲目)に一見よく似ており,レピドカリス・リニエンシスLepidocaris rhyniensisと命名され,新科,新属,新種として発表された。この種は化石としては珍しく,非常によく保存されており,成体はもちろん,幼生の形態も詳しく調べることができたほどであった。ところが,53年に,北アメリカ大西洋岸,ニューイングランドのロング・アイランド湾の海岸で,底生生物の研究中,水深9~20mの泥底中から採集された小動物に混じって,体長2~3mmのいままでに見たことのない微小な甲殻類があった。研究の結果,新種としてハッチンソニエラ・マクラカンタHutchinsoniella macracanthaと命名,記載された(1955)。この微小甲殻類は,現生甲殻類では,これまでもっとも原始的とされていたホウネンエビ類を含む鰓脚亜綱とも異なり,前記の化石甲殻類によく似ており,もっとも原始的な祖先形に近い特徴をもっているので,甲殻綱中に新たにカシラエビ亜綱が創設された。この新しい綱には,現在までに,3属7種ほどが,北アメリカ,中央アメリカ,南アメリカ,ニューカレドニア,アフリカなどの海岸の潮間帯付近から1400mほどの深海までの砂泥底質中から知られ,日本からも,サンダージエラ・アクミナタSandersiella acuminataという種類が,富岡(熊本県)および瀬戸内海の浅海底から知られている。
執筆者:蒲生 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報