日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルメル山」の意味・わかりやすい解説
カルメル山
かるめるざん
Mt. Carmel
西アジア、イスラエル北部にある山。地中海岸の都市ハイファの南東8キロメートルに位置し、標高546メートル。この山の名は、祈りの場として『旧約聖書』に出ており、またカトリックの修道会であるカルメル会が6世紀にここを本拠としていたことでも知られているが、今日では重要なネアンデルタール人骨を出土した洞穴遺跡として有名である。
ここには、タブーン(かまどの意)洞穴、スフール(子ヤギの意)洞穴、ワド(涸(か)れ谷の意)洞穴などがある。これらは、1929~34年にイギリスの考古学者ギャロッドDorothy A. E. Garrod(1892―1968)とアメリカの考古学者マッカウンT. D. McCownに率いられる両国の調査団によって発掘された。タブーン洞穴からは、30歳前後の女性のほぼ完全な骨格が出土したが、これは典型的なネアンデルタール人の特徴を保有していた。スフール洞穴からは10体の男女骨格(うち3体は小児)が出土した。スフール人はネアンデルタール人と現生人類の中間的特徴を示しており、たとえば第5号人骨は成人男性であるが、突出した眼窩(がんか)上隆起を除くと現生人類的であった。両洞穴とも、ルバロワゾ・ムステリアン型石器を出土し、しかも互いに200メートル程度離れているだけである。このためカルメル山の人骨について、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスとが共存していて混血したとする混血説と、ネアンデルタール人からホモ・サピエンスに進化する途上のものという移行説とがたてられた。しかし、前者は不自然な考え方であるとみられており、さらに中近東地区から類似した人骨が発見されたこともあって、現在、後者の説が確実だとされている。年代は当初両者とも、4万年前とみられたが、最近の検査ではタブーン人は10万年前以上とみられており、スフール人も10万年前とされるが、確実ではない。なお、両洞穴の中間に位置するワド洞穴からは、後期旧石器時代および中石器時代に属する人骨が多数発見されている。
[香原志勢]