アメリカ・ポピュラー音楽の一種類。「C&W」の略語も広く用いられる。アメリカの南東部と西部地方の大自然を背景として生まれた白人系民俗音楽と、それに基づいてつくられた音楽全般をさす。西部開拓が本格的に行われていなかった1700年代は、南部・南東部のアパラチア山脈を境とし、それ以西を西部とよんだ。その大西部の開拓者たちが、それぞれの環境においてつくった生活の音楽が起源となっている。歴史は古いが、ポピュラー音楽の一分野を形成するようになったのは1920年代からのことといえる。なお、日本では長い間ウェスタン音楽と総称してきたが、正しくは、カントリー(地方)の音楽と、ウェスタンとよばれる西部のカウボーイの音楽という二大要素を含むところからカントリー・アンド・ウェスタン音楽といわれ、単にカントリー音楽とよぶ場合が多い。
[青木 啓]
この音楽の特色は、(1)楽器編成・メロディ・歌詞などの親しみやすい単純素朴な形態、(2)失恋の歌が多いが、暗さを強調しすぎぬ楽天的なアメリカ人気質(かたぎ)の出た快い哀愁感、(3)気どりのない誠実さの表現、という3点があげられる。スタイルと手法はさまざまであるが、おもなものは次のとおり。
〔1〕マウンテン音楽 アパラチア山脈地方のテネシー、バージニア、ケンタッキー、南北カロライナ、ジョージアなど諸州の農民や木こりたちの間でおこった音楽。彼ら移民が持ち込んだイギリス系民謡が基になった。サザン・マウンテン音楽、ヒルビリーともよばれ、C&Wの源である。標準楽器編成は、5弦バンジョー、フラット・マンドリン、フィドル(バイオリン)、ギターおよびベース。1940年代中ごろにフラット・マンドリン奏者、歌手のビル・モンローが独自のブルーグラスbluegrassというスタイルをつくって影響を及ぼして以来、マウンテンという名称以上にブルーグラスの呼び名が広く用いられている。ブルーグラスという名称そのものは、ビル・モンローのバンド名ブルーグラス・ボーイズによるもので、彼の故郷ケンタッキー州はブルーグラスという異名がある。そのスタイルの特色は、3本指(人差し指、中指、親指)で弾かれるバンジョーが用いられ、歌詞は4行のバラード形式、曲は2拍子あるいは3拍子、コードは三つか四つでシンプル、だいたいテンポが速くて活力十分、リフレイン部(反復して歌われるコーラス)が二重唱か三重唱、というものである。
〔2〕カントリー音楽 テネシー州ナッシュビルの放送局で1925年に開始され現在も続いている民俗音楽ショー「グランド・オール・オープリ」Grand Ole Opryを中心に発展した音楽。ナッシュビルに多くのレコード会社や音楽出版社が集まり、現代ポピュラー音楽としてのC&Wの主流になった。1940年代の初めまでヒルビリーとよばれたが、その後マウンテンと対照的に用いられ、さらにカントリーという名称になった。
〔3〕ウェスタン音楽 これはカウボーイ系の音楽である。『峠のわが家』はその代表的な名歌。時代の変化で表面的には衰退ぎみである。
〔4〕ウェスタン・スウィング ジャズの影響を受けて1930年代から盛んになったダンス音楽スタイル。ボブ・ウィルズBob Wills(1905―1975)はその代表的大物。
〔5〕セイクレッド音楽 西部開拓時代から大きな位置を占めてきた白人系の宗教的な歌と音楽。
[青木 啓]
C&Wはアメリカ白人の心のふるさと、といわれるほど根強くて大きな人気があるが、ほかの音楽と同じく時代とともに変化し、新たな展開もみられる。黒人音楽に親しみブルースの影響を受けたハンク・ウィリアムズは、異色の歌曲づくりと歌唱によって1940年代後半からC&Wとポピュラーの間隙(かんげき)を埋めた。1950年代になると、キティ・ウェルズKitty Wells(1919―2012)が従来の男性が歌うカントリーではなく、女性の視点によるカントリーで注目され、のちにカントリー音楽の女王とよばれる存在になった。C&W界出身のエルビス・プレスリーはロックン・ロール王とよばれるまでになってからもカントリーを愛し続け、この分野でも数多くのヒットを放った。ジョニー・キャッシュJohnny Cash(1932―2003)は、独自の語るような歌唱とシンプルなサウンドでカントリーの幅を広げた。
1960年代に入って、カントリーの保守的な面に反抗しながらわが道を行くウィリー・ネルソンWillie Nelson(1933― )とウェイロン・ジェニングスWaylon Jennings(1937―2002)、深い人生の味を出すマール・ハガードMerle Haggard(1937―2016)、これまた陰影のあるロレッタ・リンLoretta Lynn(1932―2022)、才気豊かなドリー・パートンらの活躍が目ざましい。RCAビクターのナッシュビル・スタジオでギター奏者、プロデューサーとして活動していたチェット・アトキンスChet Atkins(1924―2001)らが案出したモダンでスマートなカントリー・バラードは、ナッシュビル・サウンドとしてヒットが続出、他社に影響を及ぼした。
[青木 啓]
1970年代に入ると、カントリーとロックをみごとに結合したチャーリー・ダニエルズ・バンドが登場。続いて、ハンク・ウィリアムズ・ジュニアもロック色を打ち出して人気となった。カントリーからポピュラーまで間口の広いケニー・ロジャーズやエミルー・ハリスEmmylou Harris(1947― )らが高い人気を得始めたのもこのころである。
一方、1980年代初めに、カウボーイから歌手に転進した正統派ジョージ・ストレイトGeorge Strait(1952― )がスターになり、続いて同じく正統派のランディ・トラビスRandy Travis(1959― )、リーバ・マッキンタイアReba McEntire(1955― )、多芸多才なビンス・ギルVince Gill(1957― )がスターの座につく。1980年代末にはガース・ブルックスGarth Brooks(1962― )が正統派の良さと感覚の新しさ、誠実な人間味でロック・ファンをも巻きこむ驚異的な大評判となり、ナンバー・ワン・ヒットが相次ぎ、たちまちカントリー界を代表する人物となっている。
1990年代以降は多くの若手が分野を超えて人気をよび、カントリー界はいっそう華やかさを増した。そのおもなアーティストとして、ティム・マッグロウTim McGraw(1967― )、トリーシャ・イヤーウッドTrisha Yearwood(1964― )、フェイス・ヒルFaith Hill(1967― )、リアン・ライムスLeAnn Rimes(1982― )、ブルーグラスのフィドル奏者で歌手のアリソン・クラウスAlison Krauss(1971― )、女性3人組グループのディキシー・チックスなどがあげられる。今日、カントリーにロックや現代ポップスの要素を導入する動きが盛んであるが、いずれも本来のカントリー音楽とのバランスがとれている事例が多い。
[青木 啓]
『高山宏之著『ウェスタン音楽入門』(1963・音楽之友社)』▽『三井徹著『カントリー音楽の歴史』(1971・音楽之友社)』▽『ボブ・アーティス著、東理夫訳『ブルーグラス』(1979・晶文社)』▽『東理夫著『カントリー&ウエスタン大好き』(1995・丸善)』▽『ステイシー・ハリス著、畠山嘉美訳『エッセンシャル・ガイド6 カントリー』(1996・キネマ旬報社)』▽『ニール・ヘイスロップ他著、星野吉男訳『カントリー・ミュージックの巨人』全2巻(1996・東亜音楽社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 (株)ヤマハミュージックメディア音楽用語ダスについて 情報
…アメリカ白人のうちいなかに住む大衆を主な聴衆とするポピュラー音楽。カントリー・アンド・ウェスタン,あるいはそれを略してC & Wとも呼ぶ。アパラチア山脈地方を中心に伝承されてきたイギリス系民謡が,南部の黒人音楽との接触によりブルースの感覚とかアフリカ起源の楽器バンジョーを取り入れ,1920~30年代におけるレコードやラジオの普及にうながされて現代的な民衆音楽として発展したものである。…
※「カントリーアンドウエスタン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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