ガラス繊維(読み)がらすせんい(英語表記)glass fiber

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガラス繊維」の意味・わかりやすい解説

ガラス繊維
がらすせんい
glass fiber

ケイ酸塩を主成分とするガラス溶融、加工して繊維状にしたもの。グラスファイバーあるいはガラスウールともいう。製法、用途から分類すると、短繊維と長繊維とがある。

 高温のガラスは容易に糸のように伸びるので、古代から工芸的な用途は知られていたが、工業化されたのは第一次世界大戦中、天然石綿の代用品としてドイツで高温断熱用の短繊維が製造されたのが最初である。長繊維は1930年代に、また光学繊維は1960年代に、ともにアメリカで工業化されている。短繊維は製造も簡単でフェルトのようにして断熱材に利用するが、長繊維は引きそろえ、あるいは織物としてFRP繊維強化プラスチック)、GRC(ガラス繊維強化セメント)、絶縁材などに広い用途がある。光学繊維は数千本から数十万本程度の特殊構造をもったガラス繊維を規則正しく束ねたもので、束の一端から画像を入れると、束の屈曲に沿って他端に伝送される性質があり、ファイバースコープのほか広い用途がある。

 一般のガラス繊維は細いので、比表面積がきわめて大きい。たとえば直径1センチメートルのガラス玉を直径10マイクロメートルのファイバーに伸ばすと長さは約4000メートルにもなり、面積も400倍近く増えるから、湿気に侵されにくい化学組成(Eガラス)が選ばれる。Cガラスは耐酸性で蓄電池隔壁などに、耐アルカリ繊維はセメント強化用に使われている。FRPは軽く強いので自動車、航空機、船舶パイプ、容器、電子回路用基板、さらにスキー板から釣り竿(ざお)まで用途が広い。

 光学繊維は繊維の内面の全反射で光が進行することを利用したもので、実際はこれをさらに屈折率の低いガラスで覆っている。

 光通信用のガラス繊維(光ファイバー)は、直径125マイクロメートルのガラス繊維からなり、中心(コア)の直径約10マイクロメートルの部分に屈折率の高いガラスが、その周囲(クラッド)に屈折率が0.3%程度低いガラスが使われている。この屈折率差により、光信号が外部に漏れずに中心部を通過することができる。しかし、約100キロメートル進むと光信号の強度が1%程度に減衰するので、その都度光信号が増幅されて伝送されている。現在、世界中に光のネットワークが構築され、インターネットを通じてあらゆる情報を瞬時に受け取ることができる。

 多数の繊維を配列正しく束ねると、束の屈曲に沿って画像を送ることができるので、ファイバースコープとして胃検査に用いられている。またレンズのかわりにして超小型複写機に、あるいはブラウン管の画像を外部へ導くことでファクシミリなどに使われている。

[境野照雄・伊藤節郎]

『作花済夫・伊藤節郎・幸塚広光・肥塚隆保・田部勢津久・平尾一之・由水常雄・和田正道編『ガラスの百科事典』(2007・朝倉書店)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガラス繊維」の意味・わかりやすい解説

ガラス繊維
ガラスせんい
glass fibre

ガラスを細く引伸ばしてつくった繊維。グラスファイバともいう。古代から壺などの装飾に用いられていたが,工業的には,1893年シカゴで開かれたコロンブス博覧会でオーエンス・リービー・グラス社がガラス棒の一端を熱し,これを引張って回転ドラムに巻きつけて繊維を引いてみせたのが世界におけるガラス繊維の初めである。この繊維は太さが任意に変えられ,性質の調節も可能である。すなわち耐酸性,耐風化性,耐熱性,絶縁性などすぐれた特性を,繊維としての特性 (曲げ強さ大,空間占有率大,軽い) に任意に加えることができる。したがって用途も広く,石綿と同じく保温,保冷用に,また防音,吸音用に広く利用される。またファイバスコープ,空気濾過のフィルタ,蓄電池,電気絶縁材 (糸,テープ,布など) ,防食剤に利用され,ポリエステルの発達とともに合成樹脂補強用材としてその製品は家具,建材,船体,車体,化学工業用材,スキー,ヘルメットなど広範な用途をもっている。

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