改訂新版 世界大百科事典 「キレンゲショウマ」の意味・わかりやすい解説
キレンゲショウマ
Kirengeshoma palmata Yatabe
深山の湿った木陰にまれに見られるユキノシタ科の多年草で,石灰岩地帯に多い遺存的な分布をする植物。茎の高さは80~120cm,葉は対生し,下部のものには長い柄があるが,上部のものはほとんど無柄となる。葉身は長さ幅ともに10~20cm,浅く掌状に分裂し,裂片は三角形で先がとがり,葉身の基部は心形になる。7~8月に,茎の先にまばらな円錐状の集散花序をつくり,美しい黄色の花を開く。萼筒は半球形で,先に浅い三角形の5裂片がある。花弁は長楕円形で先がややとがり,長さ約3cm,花冠はらっぱ状となる。おしべは15本あり,5本ずつ3輪に配列する。花柱は3本まれに4本で,長さ2~3cm,蒴果(さくか)の時期まで残る。子房は半下位。キレンゲショウマただ1種だけからなるこの属は,1890年,当時東京帝国大学の教授であった矢田部良吉が,日本人として最初に発表した属で,和名がそのまま学名にされたものである。
東アジア固有属で,日本の紀伊半島(大峰山系),四国,九州に自生し,朝鮮,中国東部にも知られる。アジサイなどに近縁な植物である。花が美しいので,観賞用に栽植されることがあるが,栽培は少しむずかしい。また大峰山系のものは乱採によってほぼ絶滅に近い状態に至っている。
執筆者:若林 三千男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報