改訂新版 世界大百科事典 「クジャクチョウ」の意味・わかりやすい解説
クジャクチョウ (孔雀蝶)
peacock butterfly
Nymphalis io
鱗翅目タテハチョウ科の昆虫。イギリスから日本まで分布する旧北区の代表種の一つである。開張は5.5cm内外。翅の表面は赤い地に大きな眼状紋が前・後翅に1個ずつあり,この紋がクジャクの尾羽(上尾筒)を連想させる。雌はやや大型で丸みを帯び,翅の赤い地色は雄ほど鮮やかでない。裏面はすすのように黒い。本州中部以東の低山地に多く,北海道では平地にも産する。日本では年2~3回発生し,成虫で越冬する。幼虫の食草は本州ではカラハナソウとホップ,北海道ではイラクサ類が主であるが,ヨーロッパでも同じである。雌は葉裏に緑色の卵を盛り上げて産み,幼虫は群生する。初秋,アザミやマツムシソウの花に多数が飛来するが,他の季節にはそれほど目につかない。越冬個体は早春の山道などによく出現する。曇天や低温時に静止している個体に手を触れたりすると,シャッ,シャッと音をたてて翅を開閉するが,これは威嚇目的のフラッシュ効果の好例とされる。晩夏に羽化した個体はかなり遠くまで飛び,食草のない高山のお花畑や山ろくの市街地を訪れることもある。ホップ栽培地では害虫とみなされるが,幼虫,さなぎがハエに寄生され死ぬ率が非常に多く,大被害をもたらすことはまれである。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報