改訂新版 世界大百科事典 「マツムシソウ」の意味・わかりやすい解説
マツムシソウ
Scabiosa japonica Miq.
高原に群生するマツムシソウ科の越年草。マツムシが鳴き出すころ,淡い紫色の花が美しく咲き乱れる。高さ60~90cmでよく分枝し,枝の先端に一つずつ頭状花序がつく。葉は対生し,羽状に切れ込む。頭状花序は直径4cm,上向きに咲く。花冠は合弁,花序周辺部では大きく,外側に長く伸び,中央部では筒状で放射相称。子房は下位,下垂する1胚珠がある。果実は筒状の小苞につつまれる。北海道から九州まで分布する。高山・亜高山にはえるタカネマツムシソウvar.alpina Takedaは草丈が低いが,花は大きい。
マツムシソウ属Scabiosaは約100種がユーラシア大陸に広く分布するが,とくに地中海沿岸地方に多い。花が美しいため観賞植物とされる。セイヨウマツムシソウS.atropurpurea L.(英名sweet scabious)はヨーロッパ南部原産で多くの園芸品種があり,日本へは明治の初めに渡来した。なおヨーロッパでは民間薬とされ,その英名scabiousは疥癬(かいせん)scabiesを治すところからきたといわれる。
マツムシソウ科Dipsacaceaeは日本にはほかにナベナが自生するだけだが,世界に8属約150種ある。おもにユーラシア大陸の温帯に分布するが,一部熱帯の高地やアフリカからも知られている。キク科に似た頭状花序をもつが,花は内側から外側へ向かって咲く有限花序で,胚珠が頂生するなど異なる点が多い。オミナエシ科などに近縁と考えられる。
執筆者:福岡 誠行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報