日本大百科全書(ニッポニカ) 「イラクサ」の意味・わかりやすい解説
イラクサ
いらくさ / 刺草
[学] Urtica thunbergiana Siebold et Zucc.
イラクサ科(APG分類:イラクサ科)の多年草。植物体全体に特殊な刺毛があり、触れると激しい痛みを感じるのでこの名(イラとは痛みを伴う刺激のこと)がある。茎は固まって出て、高さ40~120センチメートル、繊維質である。葉は長い柄(え)があって対生し、卵円形で長さは柄を除き4~12センチメートル。縁(へり)に粗い重鋸歯(きょし)がある。葉腋(ようえき)には2枚の卵形の托葉(たくよう)があるが、これは本来4枚のものが互いにくっついたものである。花序は葉腋に2本(つまり節(ふし)ごとに4本)ずつ出て穂状。雌雄の別があり、雄花序が茎の中部、雌花序が上部の葉腋につく。本州から九州の低山地に生育し、国外では朝鮮半島と中国大陸南西部に分布する。中国名は咬人蕁麻。本種は中国大陸と台湾に産する蕁麻(じんま)(タイワンイラクサ)U. fissa E.Pritzelにごく近縁で、かつては混同された。
[米倉浩司 2019年12月13日]
総称名としてのイラクサ
前記のイラクサを含め、イラクサ属Urtica L.、およびそれに近縁で、中にギ酸を含む特殊な刺毛を植物体に生じる、ムカゴイラクサ属Laportea Gaudich.やオニイラクサ属Girardinia Gaudich.の草本の総称。イラクサ属は葉が対生するが、ムカゴイラクサ属やオニイラクサ属は葉が互生する。イラクサ属やムカゴイラクサ属では多くの種の若い茎葉が食用とされ、ヨーロッパではセイヨウイラクサU. dioica L.、U. pilulifera L.やU. urens L.などが飢饉(ききん)の際に救荒植物として利用された。また茎の繊維が強いためにヨーロッパ産のU. cannabina L.は繊維植物として栽培されることもあった。なお、じんま疹という語は、その症状が、イラクサの仲間(蕁麻)の刺毛に刺されてできた火ぶくれに外見的に似ることからついたものである。
[米倉浩司 2019年12月13日]
文化史
茎葉の刺(とげ)は激しい痛みを伴うが、イギリスのイラクサU. pilulifera L.(英名はRoman nettle)は、ローマ帝国が侵略したおりに、イギリスの寒さがひどいと聞いたローマ兵が寒さでかじかんだ手を刺激させるのに持ち込んだことから広がったという。イギリスでは若芽はゆでたり粥(かゆ)に入れたりして食べ、葉は煎(せん)じてじんま疹やリウマチの民間薬に使った。日本でも若葉は食用にされる。
ヨーロッパでは古代から中世にかけて、茎からとった繊維で衣料やロープをつくったり、茎葉を家畜の干し草に、また種子を飼料にした。このような実用面を無視して、花ことばは「残酷、中傷、悪意、あるいは私の心を破る」とされている。
[湯浅浩史 2019年12月13日]