クミズ
kumyz
中央ユーラシアのステップの遊牧民の乳製品。クミス,馬乳酒ともいう。モンゴル人はアイラグairag,ツェゲーtsegeeという。夏秋に馬乳を日に数回しぼり,革袋または木桶に入れ,既製の少量のクミズやヨーグルトを種とし,スキーのストック状の棒で,発酵するまでかくはんしてつくる。やや透明な白濁色で,2~4%のアルコールを含み,酸味がある。蛋白質,脂肪,ビタミンその他豊かな養分を含み,古くからこの地域の遊牧民に愛飲されてきた。彼らの間には夏秋これ以外ほとんど何も食べない者が多くいる。クミズは祭儀用に欠かせぬものであり,このことはこれをあまり飲まなかった南部の暖かいステップでも同様であった。凍結させて保存し,冬に溶かして利用することも行われる。クミズは健康に良いうえに,結核,壊血病,腹痛に薬効が認められ,現在内陸アジアの各地に,これを使用するための療養所が建てられ,専門医が治療に携わっている。
執筆者:吉田 順一
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クミズ
馬乳酒のこと。中央ユーラシアの遊牧民が馬乳からつくる飲物。夏と秋に1日数回馬乳を絞り,革袋や木桶に入れて古いクミズやヨーグルトを少し加え,スキーのストックのような棒で上下にかくはんする。数千回もかくはんするうち,発酵して小さな泡が立ち,アルコール分2〜4%の透明がかった白色のクミズができあがる。タンパク質,脂肪,ビタミンなどが豊富で,クミズを飲む以外にほとんど何も食べずに夏と秋を過ごす人もいる。チュルク系民族がクミズというほか,モンゴル族はツェゲーとかアイラグという。
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世界大百科事典(旧版)内のクミズの言及
【ウマ(馬)】より
…また馬乳の飲用は,古代ではスキタイ人やリトアニア人の下で知られ,中世以降ではモンゴル人の下でよく知られている。そしてその発酵酒は,[クミズ]としてモンゴル人やキルギス人の間で愛用されている。ただ,馬の食糧源としての価値は,その牽引や乗用としての価値の増大とともに減少し,おもに農耕,運搬,軍事の面で利用されることになったのはいうまでもない。…
【嗜好品】より
… 未開社会では〈酔い〉は何か神聖なものと考えられ,超自然的な存在に結びつく仲介物とみなされている。アフリカとインドにおけるヒエ酒やヤシ酒,地中海諸国のブドウ酒,東アジア諸民族の米酒はアルコール性飲料の代表的なものであるが,中央アジアのトルコ系,モンゴル系の諸民族は,古代のスキタイ族やサルマート族のように,ウマの乳を発酵させたクミズを飲む。南アメリカでは酒類をつくるとき,発酵をうながすため原料をあらかじめ嚙んで,つぼの中にはき,それに水をそそいで酒をつくる風習があり,トウモロコシやマンディオカ(キャッサバ)からこのようにして酒をつくる。…
【醸造酒】より
…世界の国々にはおおむねそれぞれ伝統的な醸造酒がある。代表的なものには,日本の清酒,中国の紹興酒(しようこうしゆ),フランスその他のブドウ酒やリンゴ酒,ドイツ,イギリスなどのビールなどがあり,ほかにヤシの樹液でつくる東南アジアのトディ,ウシ,ウマ,ヒツジ,ヤギなどの乳でつくるモンゴル,カフカスその他のクミズやケフィール,コショウ科低木の根を原料とするポリネシアのカバなども知られる。 醸造酒は単発酵酒と複発酵酒に大別される。…
【乳酒】より
…カフカス山地のケフィール(ケフィア)は馬,羊,ヤギ,牛の乳にケフィールグレインと呼ぶある種の植物種子を加えて発酵させたアルコール性乳酸飲料である。クミズは中央ユーラシアのステップの遊牧民の馬乳酒で,馬乳を皮袋などに入れ発酵させてつくる。【菅間 誠之助】。…
【発酵乳】より
…ケフィア粒はろ過して取り分け,天日乾燥してふたたび使用できる。(2)[クミズ] 中央アジア,旧ソ連南部などで,馬乳を原料として作られる。馬乳はタンパク質が少なく乳糖が多いので,アルコール発酵に適している。…
※「クミズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」