改訂新版 世界大百科事典 「クリスティーヌドピザン」の意味・わかりやすい解説
クリスティーヌ・ド・ピザン
Christine de Pizan(Pisan)
生没年:1365-1430?
中世末期のフランスの女流作家。ベネチア生れ。4歳の頃,シャルル5世の占星学者として重用された父トマに呼びよせられてフランスに移住し,15歳のとき,その意向によって王の公証人兼秘書官のエティエンヌ・カステルと結婚,3児をもうける。この間,父のパトロンである王が死に,父が死に,さらに夫も疫病で急死,クリスティーヌはかくて〈ひとりぼっち〉(彼女の銘)になる。25歳であった。彼女は一家を支えるために,再婚という通常の道を選ばず,〈男となる〉決心をする。作家クリスティーヌの誕生である。生きるために書くこと,書くことによって死せるものをよみがえらせること,この動因が彼女に膨大な著作を生み出させていく。韻文では,愛の問題を扱う数十編の小品のほかに,歴史,哲学,道徳,政治を論ずるさまざまな大著数十巻を残した。散文では,君主論,宿命論,平和論を展開し,これらも総計十数巻に及んでいる。ボエティウス風の自伝的作品《クリスティーヌの夢枕L'avision Christine》(1405),そして反女性反結婚論に抗議する〈薔薇物語論争〉の書,さらに《ジャンヌ・ダルク賛Ditié de Jeanne d'Arc》(1429),この三つの作品に〈参加の文学者〉たるこの作家の特徴が,もっとも鮮明に表れている。
執筆者:細川 哲士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報