配偶者と死別あるいは離婚して結婚(婚姻)を解消したのち、または結婚が取り消されたのち、別の結婚関係に入ること。かつては、夫の死後妻が再婚することは好ましくないとされ、妻の再婚を禁止・制限する風俗が支配したが、現在は、そのような考え方は消滅した。
[高橋康之・野澤正充 2016年9月16日]
民法では、女は前婚の解消または取消しの日から起算して100日間経過しなければ再婚をすることができないとしている(同法733条1項)。この期間を再婚禁止期間(待婚期間・寡居期間)という。この制度は、再婚後に生まれた子が前夫の子なのか後夫の子なのか、わからなくなることがあるのを防ぐ趣旨である。したがって、女が前婚の解消または取消しの時に懐胎していなかった場合、および、女が前夫の子を生んでしまえば、100日以内でも再婚が可能である(同法733条2項)。詳しくは『再婚禁止期間』の項を参照されたい。
[高橋康之・野澤正充 2016年9月16日]
社会により再婚にはさまざまの規定が慣習として設けられている。再婚をまったく禁止している場合も、また前の婚姻解消後再婚までの間の最低期間を定めている場合も、またさらに再婚相手になんらかの制限や優先順位を定めている場合も、その規制はさまざまであるが、一般に多くの社会においては男性よりも女性に対して厳しいものとなっている。極端な場合には夫の葬式で妻が殉死すべきであるとされることもあるが、これは多くの場合社会全体ではなく上層部に限られた慣習であろう。この例はインドの上層カーストの女性の場合で、夫の死後一生喪に服するか、またはサティーと称して殉死するかしなければならなかった。中国でも儒教倫理は「貞女二夫に見(まみ)えず」を婦徳と教え、女性の再婚を禁じた。再婚の全面禁止や禁止期間の設定はこのように服喪と関連が深いが、これに対して再婚相手の制限はその社会の親族組織と微妙に関連している。よくみられるのは亡夫の兄弟がその未亡人と婚姻するレビレート婚と、男やもめが亡妻の姉妹と婚姻するソロレート婚であるが、どちらもその形式がとられる理由は社会によりさまざまである。東アフリカではしばしばレビレート婚がみられるが、このときには未亡人は新しい夫との排他的性関係に入りながら、亡夫の名のもとに子を産むのであり、ある意味では先の婚姻が継続しているともいえよう。それに対し日本でもレビレート婚がみられるが、この場合は別の婚姻とみなされ、弟が家を守りつつ兄の遺子を育てるという意味合いが強い。
[山本真鳥]
死別あるいは離婚により,婚姻関係が解消され,あるいは取り消された後,別の婚姻関係に入ること。日本民法は,男女を問わず再婚の自由を認めている。ただし,女子については,前婚の解消,または取消しの日から6ヵ月たたないと再婚できないものと定めている(民法733条1項)。この期間を,再婚禁止期間,待婚期間,寡居期間などという。戸籍担当者の過失などにより,733条に違反し,再婚禁止期間を経過しないで婚姻が行われた場合には,各当事者,その親族または検察官,当事者の配偶者または前配偶者より取消しの請求をすることができる(744条)。外国の立法例においては,待婚期間経過前の再婚も有効なものとされ,取消し等の方法を認めていない再婚制度の趣旨から考えると,日本法には検討の余地を残している。
この再婚禁止期間の制度は,ローマ法に由来し,その理由は,当初は,道義的理由によるものであり,後には,父性推定の衝突を予防し,血統の混乱を避けるための一つの方法として考えられるようになった。
ヨーロッパ各国の立法例でも再婚禁止期間の制限が設けられている。しかも,日本民法よりもいっそう長期の待婚期間の制限が課されているものもある。たとえば,ドイツでは,女子は,原則として前婚の解消,または無効宣告後10ヵ月,フランス,スイスでは,300日間再婚が禁止される。また,スイスでは,いわゆる刑罰的待婚期間が定められ,離婚配偶者に対しては,男女を問わず,1年以上2年以下,姦通による離婚の場合には,1年以上3年以下の間,再婚を禁じている。また後述するように,本来的な再婚禁止期間を定めていないアメリカでも,離婚配偶者については,多くの州で厳しい再婚禁止期間が設けられている。そのことは一つには父権思想によるもの,二つには再婚をきわめて罪悪視したキリスト教の影響によるものと推察される。そのことは,とくに離婚者の再婚にことさら制限を加えようとする立法例があることからみても明白である。制限を加えていない国としては,イギリス,アメリカ(フランス法の影響をうけたルイジアナ州を除く)および旧ソ連等の社会主義国をあげることができる。
なお,日本の民法733条による再婚禁止期間は,父性推定の混乱を防ぐ趣旨にすぎないので,前婚解消,取消し前から懐胎していた場合には,出産後すぐに再婚できるとしている(733条2項)。学説上は,この規定は再婚禁止を不要とする最も典型的な場合を例示的に明言したものであり,必ずしも制限的に解釈しなければならないようなものではないと解されている。フランス,スイス,ドイツ等の多数の立法例では,期間の免除や期間の短縮を認めている。
実質的に再婚禁止期間を必要としない場合としては,(1)離婚した女子が前夫と再婚する場合,(2)夫の生死が3年以上不明なことを理由として離婚判決を得た妻が再婚する場合,失踪宣告による婚姻解消後再婚する場合,悪意の遺棄を理由とする離婚の場合,あるいは,前夫が生殖不能で懐胎可能性のないことが医師により明確に証明される場合などがあげられる。
執筆者:橋本 宏子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…離婚によって妻は夫族の一員たる地位を去り,夫家の家産に対しても権利を失う。寡婦の再婚もこの点では離婚と共通した効果を生ずる。そして寡婦の再婚は必ず本人の意志によるのでなければならないとするのが固い掟であった。…
…江戸時代において庶民が離婚するとき,嫁入り・婿入りを問わず,必ず夫から妻へ交付するを要した文書で,これの授受によって夫婦とも再婚することができた。幕府法上離縁状の授受なしに再婚した場合,男は所払(ところばらい)の刑に処せられ,女は髪をそり親元へ帰された。…
…もっとも,それでも,離婚するときには,夫が妻に去状(さりじよう)(離縁状)を与えることが必要だった。これがないと,その妻はあらたに改嫁=再婚することができないからである。【鈴木 国弘】
[近世]
江戸時代には離婚のことを離縁,ときには離別と称した。…
※「再婚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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