改訂新版 世界大百科事典 「クロテン」の意味・わかりやすい解説
クロテン
Martes zibellina
食肉目イタチ科の哺乳類。黒褐色ないしコルク色の優良な毛皮をもつテンの1種。ユーラシアの北部森林帯に広く分布し,日本では北海道にすむ。体長35~56cm,尾長12~19cm,体重0.7~1.8kg。最高級の毛皮獣の一つで,冬毛はセーブルsableと呼ばれ,長く密で,手触り,つやともによい。針葉樹林,広葉樹林のどちらにもすみ,木にも登るがおもに地上でネズミ,リスなどの齧歯(げつし)類を昼夜のべつなく狩る。巣は倒木や岩の隙間などにつくられる。交尾期は6~8月,出産期は4~5月で,妊娠期間が250~300日と体の割りに長いが,これは胚の子宮への着床が著しく遅れるためで,実際の胚の発育期間は30~36日である。ふつう3~4子を生む。寿命は最高15年。毛皮の価値が高いため,古くから狩猟の対象とされ,18世紀にはシベリアだけでも年間数十万頭が取引された。このため,多くの地域で絶滅したが,現在では保護の効果が現れて回復しつつある。北海道にすむものは亜種エゾクロテンM.z.brachyuraで,毛質はクロテンとしてはよくない。数は少ない。
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報