改訂新版 世界大百科事典 「クードルーン」の意味・わかりやすい解説
クードルーン
Kudrun
中世ドイツの英雄叙事詩。1220-40年ころの成立。作者はバイエルンかオーストリア出身の聖職者。この物語の唯一の写本は皇帝マクシミリアン1世が16世紀初頭に税関吏ハンス・リートに筆写させた《アンブラス写本》である。物語はクードルーンの祖父の時代からの3世代にわたり,主人公クードルーンは,ヘルウィヒHerwigと婚約した後に,ノルマンディーの王子ハルトムートに誘拐されたが,その約束を13年間守りつづけ,ついにヘルウィヒに救い出される。この物語の前話ではヘテルHetel王のヒルデHilde姫奪略物語が語られるが,この〈ヒルデ物語〉はゲルマンの古い伝承に基づくもので,本来その結末はヘテルがヒルデの父ハーゲンHagenを討ち取るというゲルマン的悲劇であったといわれる。しかし《クードルーン》では両者は和睦し,次の世代ヒルデの娘クードルーンの物語が始まる。そしてその結末は,この作品が大きな影響を受けたといわれる《ニーベルンゲンの歌》とは違って,和睦的であり,そこには仇敵をも許す寛容の精神が示されているが,そこに作者の意図を見ることができる。19世紀になって戯曲,オペラなどにとりあげられた。
執筆者:古賀 允洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報