日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニーベルンゲンの歌」の意味・わかりやすい解説
ニーベルンゲンの歌
にーべるんげんのうた
Das Nibelungenlied
中世ドイツの英雄叙事詩。1205年ごろ成立。作者はバイエルンあるいはオーストリアの詩人。39章。約2400詩節からなる。
ニーデルラントの王子ジークフリートは、ブルグント人の王グンテルとアイスランドの女王ブリュンヒルトの結婚を助けた功績により、グンテル王の妹クリームヒルトと結婚する。それから10年後、あるときクリームヒルトは夫自慢がもとでブリュンヒルトと口論し、彼女を夫の妾(めかけ)とよぶ。グンテル王の家臣ハーゲンはこの一件を口実にジークフリートを殺害する。その後ハーゲンは、ジークフリートがかつてニーベルンゲン人から得た宝物をライン川に沈める。そして13年の歳月が流れる(19章まで)。フン人のエッツェル王の求婚に応じてクリームヒルトは再婚する。それから13年後、彼女に招かれてエッツェルの国を訪れたハーゲンに対して夫の仇(あだ)を討とうと図る。グンテルを家来に殺させたクリームヒルトは、宝のありかを明かさないハーゲンの首をはねる。その直後この残酷な仕打ちゆえに彼女はディートリヒ・フォン・ベルンの家来ヒルデブラントに討たれる。このようにしてブルグント人は滅びる。
物語の前半はジークフリートの死が主題で、ライン地方のフランク人の間に伝わるジークフリート伝説とブリュンヒルト伝説を素材とする。この古伝説は、現在『エッダ』や『ウェルズンガサガ』『ティドレクサガ』などからうかがい知ることができる。後半はクリームヒルトの復讐(ふくしゅう)とブルグント人の滅亡が主題で、その素材は当時ドナウ川流域に伝わっていた叙事詩とみられる。ニーベルンゲン詩人によってまとめられたこの叙事詩は、4行からなる歌節の最後に示される予告的語句によって物語の悲劇的結末へと導かれ、「喜びが悲しみに終わる」経緯が語られる。
この英雄叙事詩の後世への影響は非常に大きく、フケーの三部劇『北方の英雄』(1810)、ヘッベルの三部作『ニーベルンゲン族』(1862)などのほか、ワーグナーの楽劇四部作『ニーベルングの指環(ゆびわ)』がよく知られている。
[古賀允洋]
『相良守峯訳『ニーベルンゲンの歌』全2冊(岩波文庫)』▽『服部正己訳『ニーベルンゲンの歌――ニベルンク族の厄難』(1977・東洋出版)』▽『吉村貞司著『ゲルマン神話――ニーベルンゲンからリルケまで』(1972・読売新聞社)』