中世ドイツの英雄叙事詩。バイエルンあるいはオーストリアの詩人の作といわれ,1200-05年ころに成立した。前半はジークフリートの死が主題で,その素材は13世紀中葉にアイスランドで収集された歌謡エッダ,散文エッダ,《ボルスンガ・サガ》などにのこる古伝説である。後半はクリームヒルトKriemhild(クードルーン)の復讐が主題で,その素材は12世紀中葉にドナウ川流域で書かれたといわれるブルグント族滅亡の叙事詩である。
ネーデルラントの王子ジークフリートは,ブルグント王グンテルGuntherのブリュンヒルトBrynhild(ブリュンヒルデ,ブルンヒルデ)との結婚を〈隠れ蓑〉の力を用いて助け,代りにその妹クリームヒルトとの結婚を許される。この2人の妃たちが夫の地位の上下を言い争った際に,ブリュンヒルトはクリームヒルトから結婚のトリックを知らされ,その恥辱ゆえにジークフリート殺害を企て,グンテル王の重臣ハーゲンHagenがジークフリートを殺す。そしてジークフリートがかつてニーベルンゲン族から奪った宝はラインの底に沈められる。その後クリームヒルトはフン族のアッティラ王と再婚し,彼女は招きに応じてやって来たハーゲンに復讐を企てる。戦いの結果,フン族もブルグント族も死に絶える。クリームヒルトはハーゲンの口から宝のありかを聞き出すことができず,怒りにまかせてハーゲンを切り殺す。しかし彼女はこの残虐な行為ゆえにフン族の王の客人であったヒルデブラントHildebrandに成敗され,アッティラ王は悲嘆にくれる。
この作品には華やかな騎士生活や愛(ミンネ)の奉仕などの宮廷叙事詩的要素と,教会でのミサや洗礼などに見られるキリスト教的要素があるが,作品の本質はあくまで異教的である。物語の主人公たちを動かすのは個人の意志ではなく,集団の上に働く大きな力である。ジークフリートの死も,ブルグント族の滅亡もそのような力によって引き起こされ,物語はゲルマン的悲劇的結末へと突き進む。
F.フケー,F.ヘッベルをはじめ多くの詩人たちがこの叙事詩を作品の題材とし,R.ワーグナーの楽劇《ニーベルングの指環》は《ニーベルンゲンの歌》をはじめ広く北欧神話に題材をもとめた巨作である。なおこの叙事詩にはあとにのこされた肉親,縁者たちの悲嘆を歌った《哀歌》(1215年ころ成立)がある。
執筆者:古賀 允洋
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中世ドイツの英雄叙事詩。1205年ごろ成立。作者はバイエルンあるいはオーストリアの詩人。39章。約2400詩節からなる。
ニーデルラントの王子ジークフリートは、ブルグント人の王グンテルとアイスランドの女王ブリュンヒルトの結婚を助けた功績により、グンテル王の妹クリームヒルトと結婚する。それから10年後、あるときクリームヒルトは夫自慢がもとでブリュンヒルトと口論し、彼女を夫の妾(めかけ)とよぶ。グンテル王の家臣ハーゲンはこの一件を口実にジークフリートを殺害する。その後ハーゲンは、ジークフリートがかつてニーベルンゲン人から得た宝物をライン川に沈める。そして13年の歳月が流れる(19章まで)。フン人のエッツェル王の求婚に応じてクリームヒルトは再婚する。それから13年後、彼女に招かれてエッツェルの国を訪れたハーゲンに対して夫の仇(あだ)を討とうと図る。グンテルを家来に殺させたクリームヒルトは、宝のありかを明かさないハーゲンの首をはねる。その直後この残酷な仕打ちゆえに彼女はディートリヒ・フォン・ベルンの家来ヒルデブラントに討たれる。このようにしてブルグント人は滅びる。
物語の前半はジークフリートの死が主題で、ライン地方のフランク人の間に伝わるジークフリート伝説とブリュンヒルト伝説を素材とする。この古伝説は、現在『エッダ』や『ウェルズンガサガ』『ティドレクサガ』などからうかがい知ることができる。後半はクリームヒルトの復讐(ふくしゅう)とブルグント人の滅亡が主題で、その素材は当時ドナウ川流域に伝わっていた叙事詩とみられる。ニーベルンゲン詩人によってまとめられたこの叙事詩は、4行からなる歌節の最後に示される予告的語句によって物語の悲劇的結末へと導かれ、「喜びが悲しみに終わる」経緯が語られる。
この英雄叙事詩の後世への影響は非常に大きく、フケーの三部劇『北方の英雄』(1810)、ヘッベルの三部作『ニーベルンゲン族』(1862)などのほか、ワーグナーの楽劇四部作『ニーベルングの指環(ゆびわ)』がよく知られている。
[古賀允洋]
『相良守峯訳『ニーベルンゲンの歌』全2冊(岩波文庫)』▽『服部正己訳『ニーベルンゲンの歌――ニベルンク族の厄難』(1977・東洋出版)』▽『吉村貞司著『ゲルマン神話――ニーベルンゲンからリルケまで』(1972・読売新聞社)』
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ドイツ中世の叙事詩。民族移動期の史実や伝説を素材として13世紀に完成されたとされるが,作者不詳。ニーベルンゲンは「霧の子」を意味し,その宝を奪ったジークフリートがクリームヒルトと結ばれ,ハーゲンが彼を殺して宝をライン川に投ずる,彼女はフン族の王エッツェルと再婚して前夫の復讐を果たす,という内容。ヴァーグナーの作品に楽劇『ニーベルングの指環』がある。
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…その後,人質時代に培ったフンとの友誼を利用して西ローマ政府の実権を掌握し,皇族以外では破格の名誉である3度のコンスル職(432,437,446)のほか,433または434年にはパトリキウスの称号と全軍司令官の地位を得た。ガリア貴族層を主たる支持基盤とした彼は,436年ころフンの援軍を得てブルグントに壊滅的打撃を与える(この戦いがのちに《ニーベルンゲンの歌》の素材の一つとなった)など,ガリア防衛に功績を残したが,ブリタニアからの援助要請にこたえることはできず,またアフリカもバンダルの手に落ちた。451年にはローマとの敵対政策に転じたフンの西進を,西ゴートとの連合軍を率いてカタラウヌムの戦で撃退した。…
…エッダやサガなどの古北欧伝説と《ニーベルンゲンの歌》に登場する人物。 《ボルスンガ・サガ》ではジークフリート(古北欧語ではシグルズSigurðr,Sigurd)は鍛冶屋に養われていて,あるとき竜を退治して宝物を手に入れる。…
…436年彼らは西方に勢力を伸ばそうと企てるが,フン族の援軍の力を借りたローマの将軍アエティウスのために壊滅的打撃を被った。この事件はドイツ中世の英雄叙事詩《ニーベルンゲンの歌》によって,アッティラ指揮下のフン人によるグンターの王国の滅亡として伝承された。 残存のブルグント族は,443年,あらためて同盟者としてジュネーブ周辺の地域に移住して王国を再建した後,461年ころのリヨンの占領を契機に,ローヌ川回廊地域で南北両方向に勢力を拡大,グンドバート(グンドバド)Gundobad王(在位480‐516)の時代に最盛期に達する。…
…古典文献学の方法を中高ドイツ文学に適用し,ワルター(フォーゲルワイデの)の詩をはじめとして数多くの作品を校訂し,本文批判の基礎を築いた。《ニーベルンゲンの歌》の原型について歌謡説を唱え,学界に波紋を投じ,またレッシング全集を監修して,近代文学の本文批判に先鞭をつけた。【橋本 郁雄】。…
※「ニーベルンゲンの歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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