集団力学ともいう。単に集団の性質の記述や分類を行うだけでなく、その動態に関する力学的性質を分析し、人間の集団内行動や、集団現象の変化を支配する法則を明らかにしようとする社会心理学の一領域。基本的には、(1)集団生活の場にはどんな性質の「力」が働いているか、(2)どんな力が集団生活の「変化」をつくりだすか、(3)どんな力が変化に対する「抵抗」をつくりだすかという三つの設問が研究の出発点である。これらの研究には、理論的研究、実験的研究、および望ましい集団生活の形成を目ざす実践的・応用的研究が含まれている。
[大塩俊介]
この構想は社会心理学者レビンによって創始された。彼は、個人や集団の行動を、それに効果を及ぼす相互依存的な諸力の総体(力学的な場)の関数として説明しようとする場の理論field theoryを導入し、集団現象を説明するための古典力学的な概念体系を発展させ、グループ・ダイナミックスの基礎理論を準備した。また集団に関する実験的研究についての観察・分析の技術も多く開発し、1930年代後半のアイオワ大学児童福祉研究所における初期の研究として、専制、民主制、放任制などのリーダーシップが、異なった集団的雰囲気をつくりだし、成員の態度・行動、集団の構造、モラール(志気)、生産性にさまざまな効果をもつことを明らかにした実験的研究は有名である。そのほか食習慣の変化や工場における生産性やモラールの向上に及ぼす集団決定の効果などに関する研究もよく知られている。
その後、彼が1945年に創設した、マサチューセッツ工科大学のグループ・ダイナミックス研究所を中心として、彼の死(1947)後もカートライトらによって多くの研究がなされてきた。主要な研究主題としては、「集団目標」の性質と「集団移行」の関係、「集団凝集性」を変化させる諸条件と成員の行動への影響、「集団標準」の形成と成員の行動を斉一化させる「集団圧力」の機能、集団内コミュニケーション構造の違いが成員の行動に及ぼす効果などがあげられる。
レビンはまた、さまざまな研究から得られた法則的知識を、現実の家族や人種関係にみられる葛藤(かっとう)的事態の解決や、工場、コミュニティ、学級などにおける生産性の向上のために適用する、応用科学的な社会工学social engineeringの可能性を強く提唱した。それは、研究者と集団管理者(リーダー)との共同研究体制によって、実践、研究、事態の変化にあたる指導者の訓練の三位一体からなる研究計画であり、一般に、事態の科学的診断―変化のための一般計画の決定―討議―事実発見―計画の修正というフィードバックのプロセスからなっている。彼はこれをアクション・リサーチaction researchとよんだ。
[大塩俊介]
その後の研究動向は、しだいにレビン学派の枠を越えて拡散する傾向を示している。すなわち、第一にそれは、場の理論モデルのほかに、相互作用理論、システム理論、精神分析理論、ソシオメトリー理論、認知理論などを取り入れていること、第二に、一般理論への志向のほかに、特殊理論の発展を目ざす研究、成員間の認知的不協和に関する研究、社会的勢力に関する理論的・実験的研究などが多く発表されていること、などにその動向をうかがうことができる。このような拡散的状況を統合しようとする試みも、ショーMarvin E. Shaw(1919―2007)の研究などにみられるが、その主要な課題領域は、集団の形成過程、構造化の過程などに要約されており、グループ・ダイナミックス研究は、小集団研究の一般的発展へ収斂(しゅうれん)する傾向を示している。
[大塩俊介]
『D・カートライト他著、三隅二不二他訳・編『グループ・ダイナミックス1、2』第2版(1983・誠信書房)』▽『K・レヴィン著、末永俊郎訳『社会的葛藤の解決――社会的葛藤の解決と社会科学における場の理論1』(2017・ちとせプレス)』▽『K・レヴィン著、猪股佐登留訳『社会科学における場の理論――社会的葛藤の解決と社会科学における場の理論2』(2017・ちとせプレス)』
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