集団意思決定(読み)しゅうだんいしけってい(英語表記)group decision making

最新 心理学事典の解説

複数の人間が,合議などの直接的相互作用を行なって,全員の共通運命にかかわる決定を行なうことをいう。人間の社会生活において,合議による合意形成は,さまざまな局面で普遍的に見られる現象であり,その決定が重要な影響を及ぼすことも多い。社会心理学をはじめとして,政治学,経営学,社会学など広く社会科学において検討されているテーマである。

 集団意思決定に関する研究アプローチは,大きく二つに分かれる。一つは,合議の場に集まった個人がさまざまにもっている態度や選好が,集団の決定として集約されていくプロセスを検討し,モデル化するアプローチである。デービスDavis,J.H.(1973)が提唱した社会的決定図式social decision schemeはその代表である。数多くの研究がこれに続き,集団意思決定の結果は,合議開始時点の初期多数派が選好する選択肢の方向へと動いていくことが明らかになってきている。もう一つのアプローチは,集団で決定された結果に対する個人の受容,そしてそこから派生する個人の態度変容の様相を明らかにするアプローチである。合議の後に,成員各自の挙手によって集団決定を行なうと,成員はその決定を受け入れて,それまでの行動を変化させる効果が大きいことを明らかにしたレビンLewin,K.(1947)の研究が,このアプローチの発展を刺激した。

 人間社会に集団意思決定が広く浸透している理由としては,①民主的な民意を反映した決定を行なえること,②個人で判断するよりも的確な判断が行なえること,③個人で考えるよりも創造的なアイデアを思いつきやすくなることなどが期待できることにあると考えられる。ただ,合議の手続き次第で決定を操作しうることを示す研究が報告されており(亀田達也,1997),集団意思決定は民意を的確に反映したものとはならない可能性を多く含むことが指摘されている。また,集団意思決定の的確性や創造性に関しても,これらの期待を叶えることは難しいことを示す研究結果が多数報告されている。集団意思決定の的確性を阻害するものとしてはグループシンクや集団極化がよく知られているし,ブレーンストーミングに関する研究は,集団意思決定による創造的アイデア生成の難しさを示すものとなっている。より優れた集団意思決定を行なうために,これらの困難要因を克服する取り組みが重要課題であり,コンピュータの発展とともに,研究知見を生かしたグループウエアの検討と開発が行なわれてきている。

【グループシンクgroupthink】 ジャニスJanis,I.L.(1972)が提示した概念で,集団意思決定が非常に愚かな結論を生み出してしまう現象を指す。アメリカのケネディ大統領政権が行なったキューバの孤立化の失敗や,ジョンソン大統領政権によるベトナム戦争を泥沼の長期戦に陥れた介入拡大決定など,歴史上の重要な政策決定がしばしば深刻な失敗に終わるという諸事例を検討する中でジャニスが概念化した。個人で考えれば当然気づいたであろうことを,集団で議論する過程では見落としてしまう集団情報処理の過誤によって生じるとされる。グループシンクの症状としては,①過剰な楽観視による極端なリスク・テイキングを犯す,②自分たちの集団固有の道徳観を絶対のものだと考え,決定による倫理的結果を考慮しなくなる,③外部からの警告や不都合な情報を軽視する,④敵のリーダーを悪人であるとか愚かであるとステレオタイプ化する,⑤集団から逸脱しないように自己検閲が行なわれる,⑥満場一致の幻想が生まれ多数派への同調が促進される,⑦異議を唱える者に直接圧力がかかる,⑧不都合な情報から集団を守る監視人を自任する者が現われるなどが指摘されている。

 集団過程で生み出されるこれらの心理的現象が,不十分な情報収集や偏見に基づく分析,目標の吟味不足や代替案の検討不足,決定のもつリスクの査定不足やうまくいかなかった場合の次善策の準備不足などにつながるとされる。集団意思決定は必ずしも的確な結論を導くばかりではないという指摘は活発な議論を引き起こし,集団決定の質に注目する研究を促進した。

【集団極化group polarization】 集団成員の合議による決定が,成員個々の態度の平均よりも,挑戦的で過激なリスキーなものや,反対に慎重(コーシャス)なものになるなど,より極端なものになる現象を指す。ストーナーStoner,J.A.F.(1961)は,当初,リスク判断を伴う集団意思決定場面におけるリスキーシフトrisky shiftの発生を指摘したが,その後,その反対方向のコーシャスシフトcautious shiftが発生することも指摘した。さらに研究が進むと,モスコビッチMoscovici,S.とザバロニZavalloni,M.(1969)が,リスク判断のみならず多様な社会的態度が,合議を経ることで,より極端になることがあると指摘して,集団極化とよんだ。集団極化は,前述のグループシンクが発生する過程においても重要な影響をもたらしている。

 その発生メカニズムに関しては,合議の過程で,他者の意見と自己の意見を比較して,自己の意見を他者よりも極端なものにすることで,勇気があるとか分別があるという自己評価を高めようとする動機づけが働くとする説や,意見の背後にある論拠が共有されることによって態度が強化されるとする説が提出された。しかしながら,現在では,集団の中の多くの成員が類似した態度を初めからもっていることが,集団極化を発生させやすいことが明らかになっている。この主張は,初期多数派が主導する集団意思決定過程モデルによっても支持される。ただし,すべての合議が,個人の平均的な態度よりも極端な集団決定を導くわけではない。むしろ,集団意思決定は,それに参加した成員の中の最も極端な意見よりは,中間的な穏健な決定を導くことが多い。類似した態度をもつ者が最初から多数派を占めるような事態を避け,正反対を含む多様な態度をもつ者で合議を行なうことが集団極化に陥らないために重要である。

【ブレーンストーミングbrain storming】 ブレーンストーミングは,オズボーンOsborn,A.F(1953)によって開発された集団意思決定に創造性の活性化を期待するアプローチの代表的な存在である。成員がアイデアを出し合い,相互に刺激し合い,連鎖反応を引き起こしたり,斬新な発想を誘発したりすることを期待する技法といえる。ブレーンストーミングを実施するときには,①判断や結論を下すことをしない,②荒唐無稽なアイデアを歓迎する,③よりたくさんのアイデアを歓迎する(質より量),④異なるアイデアを結合し発展させる,という四つの原則をルールとして守ることが求められる。産業界で歓迎され,広く長きにわたって実践されてきているが,多くの実証研究が,実際に創造的なアイデアを生み出す効果については否定的な見解を示している。ブレーンストーミングが効果を上げにくい原因としては,合議の場面では,社会的手抜きやプロセスロスのメカニズムが働くことや,他者が発話しているときにはそれを聞く必要があり,自己の発想がブロックされてしまうことなどが指摘されている。 →意思決定 →集団
〔山口 裕幸〕

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