小集団(読み)しょうしゅうだん(英語表記)small group

日本大百科全書(ニッポニカ) 「小集団」の意味・わかりやすい解説

小集団
しょうしゅうだん
small group

複数の人々が対面的に会合したとき、互いに相手を認知し、また一定の関心や目的を共有しあっていることを認知し、その追求に関して相互作用をしているとき、これを小集団という。子供の遊戯集団サークル職場集団のように、相互作用が進むと、これを調整するさまざまな集団規範形成され、メンバーの間には地位や役割が分化し、また共有する関心によって心理的な共属感が生まれる。小集団の限界は確定できないが、50人を超えると上記の性格は不明瞭(ふめいりょう)になるとされ、また小集団はより大きな集団の一部である場合が多く、内部にもより小さな下位集団subgroupを含むことが多い。

[大塩俊介]

研究史的背景

小集団に関しては、20世紀の初頭、社会学ジンメルが、成員数の集団内相互作用に及ぼす影響についての理論的研究を発表し、クーリーやG・H・ミードが、人格形成に対する第一次集団primary groupの重要性を論じたのが初期の研究である。その後1920年代以降、メーヨーらによる工場内のインフォーマルな小集団の生産性に及ぼす影響の研究、W・F・ホワイトWilliam Foote Whyte(1914―2000)の人類学的手法による「街角のギャング集団」の分析などが有名である。

 心理学の分野では、まずF・H・オールポートが、作業や思考に及ぼす集団の影響に関する実験的研究を行ったが、とくにモレノによる小集団の構造分析のためのソシオメトリー法の開発や、レビンの集団リーダーシップの研究をはじめとする集団力学グループ・ダイナミックス)の理論的・実験的研究は、小集団研究に対して大きな刺激を与えた。

 いわゆる小集団研究という社会心理学的な研究領域が確立したのは、以上の研究史的背景の下に、第二次世界大戦後の1950年以降、主としてアメリカにおいてであり、今日まで膨大な研究が発表されている。

[大塩俊介]

研究主題と成果

小集団の研究主題は多岐にわたっているが、大まかにいうと、何が集団の間にさまざまな差異をつくりだしているのか、それらの差異は集団活動にどのような効果を及ぼすのか、という点に要約される。集団の差を示す特性として取り上げられている主要な変数は、(1)集団の大きさ(人数)、(2)集団の構成(年齢、性別、能力、パーソナリティーなど)、(3)集団構造コミュニケーション、役割、リーダーシップ構造など)、(4)集団の凝集性、(5)集団の課題特性と環境の条件、(6)相互作用のパターン、(7)集団の文化(伝統的規範や慣行)、(8)集団の効率(生産性および満足度)などである。

 まず集団の大きさに関しては、人数が増加すると参加の程度に不均衡が生ずることが検証されている。内向的な成員は、人数の増加とともに参加を控えるようになり、確信的な成員は逆に影響力を増大させる傾向がある。また、メンバーの満足度も集団の大きさに関係があり、大きな集団では反対の表現が抑圧され、党派が形成されやすい。

 集団の構成に関しては、メンバーの同質性は相互作用を促進するが、複雑な作業が要求される場合は、異質的で相互補完的なパーソナリティーの組合せのほうが効率的である。また、多くのパーソナリティー特性のなかで、「知能」「外向性」「適応性」の要因が、連帯性の形成や、リーダーシップ、人気度に相関するという研究も報告されている。

 集団構造の次元では、コミュニケーション、友情、威信などの構造が取り上げられ、フォーマルな地位構造と整合しないとき、モラールを低下させる傾向が指摘されている。

 集団の凝集性は、メンバーを集団にとどめる力と定義されるが、コミュニケーションの量、メンバー間の合意の程度、心理的安定感、活動の効率性などとの相関が検証されている。

 集団が直面する課題の複雑さは、分業を要求するが、成員の特殊な能力や関心を引き出すプラス要因と、分業単位間の協働を阻害するマイナス要因を含む。作業の困難さがもたらすストレスは、あまり大きくない場合はかえって遂行を促進し、凝集性を高め、寛容的・民主的リーダーシップが適合性をもつなどの結果が報告されている。

 相互作用の性質に関しては、アメリカのベールスRobert Freed Bales(1916―2004)の考案したカテゴリー・システムの課題領域と対人情緒領域におけるプラスの行動頻度と、地位ランクの相関が検証され、共有された価値や規範を意味する集団文化は、同調行動を促進し、偏倚(へんい)行動を統制する傾向が検証されている。また集団の効率性に関しては、課題遂行における生産性、集団維持の機能、モラールや満足感の間の関係が、多くの研究によって検討されている。

 そのほか、集団形成に関する研究領域として、メンバーの行動の動機づけの基礎、組織や構造の形成メカニズム、集団特性が各成員に及ぼす異なった効果などに関する多くの研究がある。

[大塩俊介]

『青井和夫著『小集団の社会学――深層理論への展開』(1980・東京大学出版会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「小集団」の意味・わかりやすい解説

小集団
しょうしゅうだん
small group

対面接触の,成員相互間に相互作用のみられる少人数から成る集団。家族,近隣,職場集団,学級集団,友人集団,サークルなどがこれにあたる。あるときには第1次集団と同義に用いられ,また,インフォーマル・グループとも混同されることもある。しかし小集団は,それぞれ個人として認知し応答しうるほどの印象や知覚を得た人々の集りであって,互いに同一の場にいたことを記憶していることを最小の条件とする。したがって必ずしも第1次集団やインフォーマル・グループと完全に一致するわけではない。小集団の研究は第1次世界大戦後の,いわゆる資本主義の危機と大衆社会的様相が顕在化した時点で,「第1次集団の再発見」ともいうべき契機をなし,学級や職場の人間的な管理や集団治療の問題として集団技術が脚光を浴びて登場した。その後,集団技術の研究,パーソナリティの形成と変革,集団内部のダイナミックス,社会的機能,集団一般理論の形成,集団の調査などの研究が発展し,社会計画のなかでの小集団の戦略的重要性をも問題にする方向にいたっている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「小集団」の意味・わかりやすい解説

小集団【しょうしゅうだん】

直接に接触ができ,互いに親密でコミュニケーションの可能な少数者からなる集団。家族,遊び友だち,サークル,職場の同僚等。小集団研究はジンメルの相互作用の研究,クーリーの第1次集団の研究などの理論的考察に始まる。現在はホーソン実験,ソシオメトリーグループ・ダイナミクス等の手法による研究成果が,教育,福祉,集団治療,グループ・ワーク等に利用されている。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の小集団の言及

【集団】より

…共属の感情が強くて一体感や〈われわれ意識〉(we‐feeling,成員が自覚的に集団それ自体を一つの主体として意識するところに生ずる共通の感覚)をもつ集団もあるし,それが弱い集団もある。集団成員の数が少ない小集団(最小は夫婦のような2人集団)もあれば,国のように多数の人々を含む大集団もある。このように具体的な集団は千差万別であるが,集団の本質は,人々の間で目標をめざす共同性があることであり,人々の活動を調整する仕組みと人々の感情的融合とが存在しているということである。…

【小集団活動】より

…企業における経営参加の方法の一つで,おおむね10人以下の小集団を従業員に構成させるようにし,その自主的な共同活動を通じて労働意欲を高め,企業の目的を有効に達成しようとするものである。本来,小集団small groupとは,少人数のメンバーで対面接触による確かなコミュニケーションを重ね,目標を共有する継続的な活動を通じ,相互受容関係を深めていくものであると定義されるが,企業のなかで小集団活動が関心を高めている理由としては,このような小集団の性質にもとづき,(1)チーム効率を十分に発揮して生産性向上,経営の効率化に結びつけることができる,(2)従業員の意見や考え方が経営に反映され,働きがいを生みだすことができる,(3)小集団のなかで自己をふりかえり,相互啓発を促進することができる,などがあげられ,組織のニーズと個のニーズを統合する活動となっている。…

※「小集団」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android