ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「動機づけ」の意味・わかりやすい解説
動機づけ
どうきづけ
motivation
動機づけの過程には,動因または動機,道具的反応または手段,さらに誘因または目標の要因が含まれ,これらの機能的関連が行動傾向を決定する。
欲求と願望は人間のパーソナリティの主要な構成要素であると認められてきたが,C.ダーウィンの理論が環境への心理的適応に適用されはじめると,動機づけの問題が注目され,ダーウィンの理論と動機づけの間に,次のような2つの重要な関連が認められた。まず,動物界の一員として,人間は少くとも食物,水,セックスなどに対する本能に支配されている。次に,動機づけの能力のような行動的特徴は,肉体的特徴と同様に進化の目的に適している。
心理学界では 19世紀末から 20世紀初めまで,あらゆる行動は本能的なものであるとされていたが,その主張を証明する方法がないうえに,先天的と考えられていた行動の大半が,学習や経験で変えうることが実験で証明された。 20世紀初頭,イギリス系アメリカ人の心理学者 W.マクドゥーガルは,人間の行動を動機づけるのは基本的に本能であるとして,知覚や感情に対する動機づけの支配力を強調した。 S.フロイトも,人間の行動は不合理な本能的高まりに基づくものとし,人間を基本的に動機づけるのはエロス (生や性の本能) とタナトス (死の本能) であるとした。アメリカの心理学者 R.ウッドワースは,本能という議論の多い言葉に代え,人間やその他の動物に行動を喚起させる作用として,動因という用語を提起した。アメリカの神経学者 W.キャノンは,動機づけの主要機能を身体の調整と考え,ホメオスタシスという言葉を用いた。非生物学的動因は学習された動因と呼ばれ,生物学的動因とともに動機づけの力をもつと考えられた。その後,動因自体も恒常的,非目的的なエネルギー状態であるとの主張がなされた。緊張を軽減しようとするこうしたエネルギーの傾向は,過去の経験の強化を通じて学習された習慣に基づいている。 1920年代から 50年代までは動因理論が支配的であったが,やがて神経学の実験によって,緊張の軽減は本質的に学習による強化であるとの理論に反する覚醒状態が発見された。そのうえ,脳にはいわゆる快中枢があり,そこを人工的に刺激するとネズミは疲労で倒れるまで動き回る。また,新しい環境を探ったり,別の動物を見たりするような単純な刺激にすぎない報酬の場合でさえ,人間を含めて動物は学習することが証明された。
人間に力を与える仕組みの代りに,人間の欲求を研究した心理学者もいた。 H.マレーは一次的 (先天的) と二次的 (後天的) とに分けた欲求のリストを発表し,こうした欲求が人間の行動を目的志向的にする,とした。 A.マズローは,最下位に生理的欲求があり,安全の欲求,社会的欲求,自我欲求,そして最上位に自己実現や種々の認知や美的な目標を求める欲求があるとする,欲求段階説を説き,下位の欲求を満たされてから,上位の欲求が高まると考えた。行動の面からみると,動機づけには必ず目標を伴う。一般的に,人は目標を強く求めたり望んだりすればするほど,個人の気質や教育や自己イメージなどに邪魔されるものの,目標を達成しやすい。行動療法においては目標に対する態度の重要性を強調し,求める目標に対して人間が感じる両面価値感情,目標を明確に心に描く能力,目標をより小さな達成可能な課題に分ける能力という動機づけに影響する3要素が考えられた。認知心理学では,動機はそれに関連した認識領域において人を敏感にすることがわかった。成績に対して高い欲求をもつ人は,画面上に短時間映し出された成績に関連する言葉をすばやく認識できる傾向がある。苦手な科目は得意な科目より大きく見え,なんとかしたいと思っている科目に対して,より大きな刺激を受ける。心理学ではまた,動機づけは人の職業選択に大きく影響すると考えられた。たとえば,成績に対する高い欲求は,結果が明確に出て個人的な責任感を伴い適度な危険に挑戦できる企業家的な職業によって,最も満たされやすい。
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