精選版 日本国語大辞典 「独占禁止法」の意味・読み・例文・類語
どくせんきんし‐ほう ‥ハフ【独占禁止法】
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1947年(昭和22)、GHQ(連合国最高司令官総司令部)による占領政策の一環としてアメリカ反トラスト法を手本として制定された法律。正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号)。独占禁止法と呼称されることが一般的で、独禁法と略称されることもある。執行機関は公正取引委員会(公取委)。事業者間の公正な競争を確保することにより、国民経済の民主的で健全な発達、および消費者の利益確保を目的としており、経済法分野における中心的役割を担う法律である。
[金津 謙 2016年1月19日]
独禁法は、事業者・事業者団体、役員・従業員など違法行為の実行役を適用対象とし、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法の3類型を禁止するとともに(独禁法の3本の柱)、これら禁止行為を抑制するためのさまざまな補完規定から構成される。
第一の柱は、私的独占の禁止である。単なる独占ではなく「私的」独占としたのは、当時法律で認めていた独占(公的独占)と区別する必要があったためで、企業の所有形態を表すものではない。私的独占とは、市場支配力を獲得することに成功した事業者が、不当に他の事業者の事業活動を支配(支配型私的独占)、もしくは市場から排除(排除型私的独占)するような場合である。単に事業者が市場での競争に勝利し、その規模を拡大した結果、競争者が排除されるような場合ではなく、獲得した市場支配力を悪用し、市場における事業者間の公正な競争を阻害することを禁止しているのである。また、同様に企業間の合併、経営統合、持株会社、役員の兼任なども事業支配力の集中度が高まることで、事業者間の競争が阻害されるおそれが生じることから、規制の対象としている。さらに、市場支配率が1社で50%を超えるような独占的状態にある場合、競争回復のため、公取委により事業の一部譲渡が命ぜられる旨の規定がある。
第二の柱は、不当な取引制限の禁止である。一般にはカルテル、入札談合と呼称されることがきわめて多い。カルテルは競争関係にある複数事業者間において交わされる競争停止契約である。たとえば価格カルテルの場合、それまでさまざまな価格で販売されていた商品が、事業者間の合意により、価格メカニズムを無視した横並びの価格となってしまうのである。公共工事などで行われる入札談合も同様である。国民経済に対して与える影響が強いことから厳格な規制が行われている。
第三の柱は、不公正な取引方法の禁止である。私的独占、不当な取引制限が事業者の市場支配力を形成し、維持・強化することを目的としているのに対して、不公正な取引方法は、公正な競争を阻害するおそれのある行為を規制することにより、市場支配力の形成を未然に防止することに重点をおいた予防的規定といえる。不公正な取引方法に該当する行為には、共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用が規定されている。さらに、公取委による指定制度が導入されており、公取委が公正な競争を阻害するおそれのある行為を指定し、不当廉売、欺瞞(ぎまん)的顧客誘引、抱き合わせ販売などが規制対象とされている(一般指定)。そのほか、特定の業界のみが対象となる行為として、大規模小売業者が行う不公正な取引方法、特定荷主が行う不公正な取引方法、および新聞業界の不公正な取引方法を指定している(特殊指定)。また2000年(平成12)改正で、不公正な取引方法により損害を受けるかもしくは受けるおそれがある場合、裁判所に対してその侵害行為の停止、もしくは予防を請求することが可能となっている(差止請求)。
[金津 謙 2016年1月19日]
違反行為に対する制裁は、主として行政罰である課徴金、刑事罰として罰金刑と懲役刑が規定される。課徴金はその対象行為と算定率が拡大し、現在では私的独占、不当な取引制限、国際協定・契約、事業者団体の行為、不公正な取引方法の一部が対象となる。また、課徴金額は行政機関である公取委の裁量を排除する目的から、違法行為実施期間の売上額に一定の算定率を乗じた金額となっている。2005年改正により、事業者が自ら関与した入札談合やカルテルの事実を公取委へ申告することにより制裁措置が減免される課徴金減免制度が導入された。刑事罰については、公取委より検事総長への刑事告発依頼を待って、訴追が行われる。たとえば私的独占、不当な取引制限、事業者団体の競争制限行為に対しては、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、および法人に対しては5億円以下の罰金が科されるという重い刑罰が規定されている。しかし、刑事告発された件数は2015年時点で20件程度であり、公取委が摘発した違反事件のごく一部に限定されている。
[金津 謙 2016年1月19日]
日本は戦後GHQによる占領を受けるが、独禁法はその対日占領政策、「経済の民主化」を実現する目的から制定された法律である。GHQは戦前の持株会社方式による財閥支配型の経済体制が、日本を戦争に導く一因となったと考え、1945年11月、持株会社整理委員会を設立し財閥を解体。1947年過度経済力集中排除法(昭和22年法律第207号)により、市場支配力をもつ企業を分割した。独占禁止法は、ふたたび戦前の経済体制に戻ることのないよう、自由主義・資本主義経済体制を維持する役割を担うこととなる。
[金津 謙 2016年1月19日]
制定当初の独禁法は、持株会社の設立・転化禁止、事業会社の株式保有の原則禁止、合併は認可制とし、きわめて限定的な場合のみ認めるなど、厳格な規定を設けていたが、1949年改正、1953年改正により大幅な規制の緩和が行われた。その後、独禁法政策は低迷し、昭和40年代には、過度経済力集中排除法により分割された企業の再合併などが急増する。しかし、1977年改正は、オイル・ショックによる物価高、さらに石油闇(やみ)カルテル事件などにより、国民による規制強化の声が高まったことから、課徴金制度の導入、独占的状態の規制など、規制が強化された。1997年(平成9)改正で持株会社制度が解禁されるが、その後も厳格化の改正は続く。2005年改正により、課徴金算定率の引上げ、課徴金減免制度の導入、違反行為への迅速対応を可能とする審判手続の見直しが行われ、さらに公取委に令状に基づく強制捜査を認める犯則調査権限が導入されている。2009年改正では、課徴金の対象行為が拡大され、課徴金減免制度の多様化、カルテルに対する懲役刑の厳罰化が行われた。
このような独禁法厳格化の一方で、2013年改正では、公取委の象徴的な権限である審判制度が廃止された。それまで、公取委の下した排除措置・課徴金納付命令に不服である場合、公取委に不服申立てを行うこと(審判制度)が定められていたが、処分庁に対して不服申立てをすることに対しての経済界からの不満の声にこたえたものである。
[金津 謙 2016年1月19日]
『谷原修身著『新版 独占禁止法要論』第3版(2011・中央経済社)』▽『土田和博・栗田誠・東條吉純・武田邦宣著『条文から学ぶ独占禁止法』(2014・有斐閣)』▽『久保成史・田中裕明著『独占禁止法講義』第3版(2014・中央経済社)』
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トラスト結成やいっさいのカルテル行為を禁じた「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」。占領期間中の1947年(昭和22)4月14日公布。財閥解体直後,GHQの指示により制定された。国際カルテルへの加入,競争会社の役員の兼務,持株会社を禁止。しかし,49年と53年の改正で,不況カルテルや合理化カルテルは適用除外となり,競争会社の株式保有禁止や保有限度の緩和など,実質的に骨抜きとなった。73年秋の石油危機下で大企業の不当な取引制限が暴露され,77年5月に企業分割措置,違法カルテル課徴金,株式保有制限強化などで強化・改正された。97年(平成9)経済構造の変化にともない持株会社は原則的に解禁となった。
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…反トラスト法ともいい,アメリカの独占禁止法制のことである。アメリカの独占禁止法が〈反トラスト法〉とよばれるに至ったことについては,歴史的理由がある。…
…しかし,このような手段は,ある意味で競争的自由企業経済体制の不可欠の前提である私的所有制度の中枢を変革するものであり,容易には実現しえない。日本の独占禁止法は,他に例を見ない〈独占的状態に対する措置〉の規定(2条7項,8条の4)を有し,一定の市場成果の存在を前提にして,寡占的市場構造下の大企業の分割を命じうるものとなっている。しかしその性質上,この規定の運用は非常に困難とされ,現実の寡占規制としては,むしろ寡占企業のカルテル類似行為を厳しく規制することが有効と考えられている。…
…第2次大戦以前の日本においては,後述するように,1925年の輸出組合法以来のカルテル法の歴史があった。しかし戦後の占領政策の中心に日本経済の民主化方針がすえられ,その一環として独占禁止法が制定されたため,法体系中におけるカルテル法の意義,位置づけに根本的な変革が加えられた。まず47年制定当初の独占禁止法は,カルテルの原則禁止という厳格な競争政策に依拠するものであったため,戦前・戦中のカルテル法はすべて廃止された。…
…なおこのほかに特定の市場における集中度の増大ではなく,一般的な経済力の増大を目的とする結合もあり,民主政治の確保といった観点等から,この種の結合に規制が加えられる例も多い。 日本の独占禁止法も,母法たるアメリカのアンチ・トラスト法の考えを引き継いで,カルテル,私的独占,市場集中を実現する合併,営業の譲受け,役員兼任,株式保有を禁止し,取引段階を異にする企業間の結合も,不当な拘束条件付取引と判断される場合にはこれを禁じている。なお日本独自の企業結合規制として,一般集中防止のために,持株会社の全面禁止と大規模会社の株式保有の総量規制の制度があった。…
…日本においても,第2次大戦終了後,アメリカの反トラスト政策の影響を強く受けた占領政策の一環として,財閥解体と過度経済力集中排除法による企業分割がなされた。その後,1947年に制定された独占禁止法は,53年改正によって削除されるまで,不当な事業能力の格差がある場合に公正取引委員会が営業施設の譲渡を命ずる企業分割規定を置いていた。この規定は結局一度も適用されることなく終わったが,石油危機を契機とする77年の独占禁止法改正は,独占的状態に対する措置の規定を新設し,法定の規模を超える巨大企業が悪しき市場成果を示している場合に,公正取引委員会が営業の一部の譲渡を命ずることができることとし,企業分割規定を復活させた。…
…さらに製品分化がある寡占や独占的競争市場では,品質の選択や情報提供のための広告費の増減による非価格競争や新技術導入のための競争が行われることも特色である。【川又 邦雄】
[企業間競争の法的規制]
日本の現行法の中で,直接に企業間競争にかかわる規制をなすことを目的とする代表的な法律に,独占禁止法や不正競争防止法がある。不正競争防止法は,営業者が自己の広く知られた氏名,商号,商品等を他人によって用いられ,営業上の利益を害されることを差止めによって防ぐことを目的とするもので,一般に,商業道徳ないしは商業倫理の観点から利潤獲得の手段としての競争をとらえ,同業者間の利害を調整するための法と解されている。…
…第2次大戦後,日本は占領下におかれ,この期間にアメリカの強い影響下に,経済民主化政策が行われ,日本経済を自由主義に基づいて再建することとなった。その基本法として独占禁止法が制定されたが,それ以来,日本の経済法の中心は独占禁止法にあるとされるようになった。 このように,経済法の概念は,第1次大戦ごろに形成されて以来,その内容は時代によって若干移り変わってきているが,その中心となる核としては,国家の経済ないし企業活動への経済政策的関与ないし介入をあげることができる。…
…1948年に制定された事業者団体法によって創始された用語であり,アメリカのトレード・アソシエーションtrade associationに相当する。独占禁止法(1953年の改正の際,事業者団体法を吸収した)によれば,事業者団体とは,(1)主たる目的は事業者としての共通の利益の増進,(2)二つ以上の事業者の結合体,またはその連合体,(3)資本または構成事業者の出資を有しない,(4)営利を目的とする事業を営まない,の要件を充足するものをいう。事業者団体は,構成員の産業の種別により二つに大別できる。…
…今日ではほぼ3種類の独占対策が講じられている。その第1は,規模の経済性が市場経済の機能を妨げない産業分野に,カルテルやトラスト,不公正な取引方法などを禁じた独占禁止法を適用することである。独占禁止法制には各国でかなりの差異があるが,1970年代には発展途上国でも独占禁止法制定の動きがあった。…
…独占禁止法が禁止する行為類型の一つ。競争的な市場では,売手と買手との間で,互いに,他の売手を排し他の買手を排して,取引の相手方を確保するためのさまざまな試みがなされる。…
※「独占禁止法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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